陶芸×建築で新境地を開く、気鋭のアーティスト【Penクリエイター・アワード審査員特別賞 奈良祐希】

  • 文:小長谷奈都子

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Pen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

審査員特別賞 Pen編集部 選

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陶芸と建築という二刀流で、これまでにないアートのかたちを社会に提示するアーティスト。ニュートラルに柔軟にコラボレーションを楽しむ様子や、建築分野での活躍に期待がもてる。

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奈良祐希●1989年、金沢市生まれ。祖父は文化勲章受章者の大樋陶冶斎、父は11代大樋長左衛門。東京藝術大学美術学部建築科卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所で学び、その後、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻を首席卒業。現在は金沢に陶芸のアトリエ、東京に建築デザイン事務所「EARTHEN」を構える。 © Yuki Saito

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「価値観が多様化して自由になってきた時代に、領域や境界を分けると表現の幅が狭まる。自分がやっていることは陶芸と建築ではあるけれど、トータルに芸術をやっていると考えています」

その言葉通り、奈良祐希は陶芸と建築の世界をボーダレスに行き来する。実家は金沢の大樋長左衛門窯。京都の樂家から分家した350年以上続く茶陶の名門に生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻を首席で卒業。建築で使われる3DCADやプログラミングといった最先端テクノロジーと、陶芸の伝統的な技法を融合させた制作方法で、繊細かつ大胆な作品をつくり出す。

縄文土器にインスパイアされた処女作の『Bone Flower』、金沢の雪景色に着想を得た『Ice Wall』、西陣織の老舗、細尾のテキスタイルと共鳴する『Lotus』など、周りから影響を受けてつくられる奈良の作品。それは、最先端のメソッドや面白い人たちとの出合いに刺激されたり、考え方を複合的に捉えたりすることが、自分たちの時代や陶芸を次のステージに推し進める手段になるとの思いがあるから。展覧会のスタイルも独特で、営利目的が先行した従来の展覧会には興味がないと言い切る。

「建築や他のことをやっていることが僕のステイタスだとすれば、現地の面白い人と組んだり、いままでコラボレーションしてこなかったことを積極的に取り入れることで、新しいアートのかたちを社会に提示したい」

ここ数年は陶芸を中心に活動を続けてきた奈良だが、次の5年は建築に重心を置きたいという。

「陶芸も建築も地域性や歴史性を反映した、深いところでつながりのある芸術だと思います。いま、陶芸と建築の設計プロセスを同期させる設計活動に取り組んでいて、陶芸でいう釉薬のような化学反応や劇薬を設計プロセスに持ち込んでいますが、ハラハラするし、楽しみでもあります」

企業の新社屋や新たな美術館の設計など、既にいくつかのプロジェクトが進行中。伝統を継承する立場で、自由に羽を広げる奈良から目が離せない。

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『Bone Flower』(2017)

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3DCADやプログラミングによる設計図をもとに、手でこねてたたら状にした土からパーツを切り出して組み立てた作品。鋭角的なフォルムは縄文土器をモチーフとしている。内外の境界が曖昧で、光と影をはらむ。

「Synergism」 (2020/ROLF BENZ TOKYO)

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ドイツの高級家具ブランド、ロルフベンツの旗艦店にて、世界初となるコラボレーション展示を開催。ロルフベンツの家具から着想を得た「Bone Flower」の新作10点を発表した。

「ENSEMBLE」 (2021/佳水園)

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ウェスティン都ホテル京都の佳水園で開催された個展。数寄屋建築や枯山水との調和、西陣織の細尾やいけばな小原流五世家元とのコラボレーションを実現。会場構成も自ら担当した。

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ニコライ・バーグマンとのコラボ展覧会が開催!

フラワーアーティストのニコライ・バーグマンとのセッション展覧会「JAPANDI-NA(ジャパンディーエヌエー)」を12月15日(水)〜2022年1月14日(金)まで、東京・南青山のNicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2Fにて開催。新作を披露する。

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※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。