場の記憶をつないでいく廃材の再生システムを開発し、 消費社会への違和感に挑む【Penクリエイター・アワード we+】

  • 写真:齋藤誠一
  • 文:岩崎香央理

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we+●1982年生まれの安藤北斗(右)と80年生まれの林登志也( 左)により2013年に設立。リサーチと実験に立脚した表現手法でかたちにする。おもな受賞歴にEDIDAヤングデザイナー・オブ・ザ・イヤーにノミネート、2020年日本空間デザイン賞金賞などがある。 https://weplus.jp

Pen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

今年度のクリエイターアワードを受賞した7組のうち、一般応募から受賞を果たしたのが、林登志也と安藤北斗が率いるデザインスタジオ、we+(ウィープラス)だ。2021年、商業やオフィス空間の設計・施工を手がける企業の船場と共同で、廃棄建材を再生するエコシステム「Link」を推進。写真でふたりが背にしているのが、そのLinkから生まれたリサイクルマテリアルだ。

we+のデザイン・アプローチが他と一線を画しているのは、その入り口に人と社会、資源や自然環境を巡る今日的な課題があり、それに対する膨大なリサーチと実験を、プロジェクトの根幹としているからだ。

「ものを売るための広告や意匠をつくることや、消費システムに乗り続けるデザインには強烈な違和感がある」と、林は言う。今回、評価の対象となったLinkの開発背景にも「つくっては壊すことへの違和感」があったという。

ショッピングモールやオフィスビルなどテナントの入れ替えが頻繁な施設では、せっかく完成させた内装が早ければ数年で取り壊される。それによって大量の廃棄建材が発生するという、つくり手側のジレンマから、このプロジェクトは始まった。担当した船場・エシカルデザイン本部の成冨法仁は、開発の経緯をこう語る。

「意匠優先で煌びやかなものづくりを是としてきた内装業界には、捨てる過程での規制が実はあまりなく、約30%が混合廃棄物として埋め立てに回されています。アップサイクルやサーマルリサイクルなど業界の取り組みもありますが、もっと違った視点から循環の物語を描けないだろうかと、彼らに相談をしました」

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船場のデザイナー、成富法仁。エシカルデザイン本部でSDGs理念に根ざした空間創造を提案。船場本社のリニューアルデザインも手がけた。

we+が提示したのは、素材を起点としたものづくり。リノベーションの過程で出る廃材そのものに新しい価値を生むヒントがあると考え、実験を開始した。混合廃棄物や使用済みサンプルを山ほど集め、自分たちの手で原料レベルにまで分解・粉砕。おもに木とレンガ、金属を基礎として調合し、成形するプロセスを何度も繰り返すうち、意外なほどの美しさに気がついた。かたちを残した代償である木片が模様となり、砕いたレンガが朱色の濃淡となって描き出される。鉄は酸化の進み具合によって青や黒のアクセントとなり、砕く粒度や混ぜる割合を変えるたびに違った表情が現れた。

「世の中に数多くあるリサイクル素材の大半はどうしても表情が均一になりがちで、ゆらぎがない」と安藤。「それはていねいに攪拌してつくられるからなのですが、僕らはもっと、砕いたり混ぜたりする工程を不均一に留めたり、物質が変化することの不完全な美しさを、デザインで表現したい」

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廃材がたどる時間や記憶、それが豊かな表情を生む

素材と対峙する実験的なクリエイションを得意とする彼ら。これまでも、渦巻きのような水流をワックスで一瞬のうちに閉じ込めた照明『Swirl』や、水滴の動きや温度変化といった自然現象を可視化した作品を発表してきた。

「動きやゆらぎといった現象を閉じ込めるのは、作品に時間の概念を含ませるため」と、林は言う。Linkが豊かな表情を醸し出すのは、廃材がたどってきた時間の流れや場の記憶が、まだ残っているからかもしれない。

「たとえば店を改装する際、解体された素材を砕いて混合し、新しい空間の建材に使う。すると、この表面に見える鉄の色や木のチップは、実は以前にこの場所で壁や床に使われていたものなんだよと、空間への思い入れを継承できる。Linkのリサイクルはつまり、記憶を留めたまま、かたちを変えて再生すること。つくっては壊す消費社会への違和感に対し、僕らが出したひとつの回答です」

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2020年に発表した照明『Swirl』は、巨大な水槽内に水流をつくり、溶けたワックスを流し込んで渦状の原型を形成。不確実な水流を形に落とし込んだデザインは、松明(たいまつ)のようなあかりを灯す。photo: we+

今後、Linkをリノベーション現場へ実装し、リサーチも継続していくという。

「経済を動機として社会が動く以上、5年、10年で入れ替わる商業空間があることはしかたない。でも、消費の中にエコシステムを組み込み、つくり手もその輪に入っていけば、新しい価値をつくれる」と安藤。場の記憶がLinkでつながり、再生した空間で第二章を語り出す、そんな循環の物語を彼らは思い描いている。

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PROCESS OF PRODUCING "LINK"

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photo: SEMBA

1. 商業施設のテナント入れ替えやリニューアルで解体された内装は、約30%がリサイクルされずに混合廃棄物として処理される。

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photo: SEMBA

2. 船場オフィスのリノベーション時に出た廃材や大量のサンプル材料を回収し、新たなリサイクルマテリアルをつくる実験を開始。

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photo: we+

3. 廃材を分別し、木・レンガ・鉄を基礎マテリアルとして使用。大きめの破片から細かい破片まで粉砕の粒度を変え、検証する。

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photo: we+

4. レンガを粉状になるまで砕くと、顔料のようなテクスチャーに。着色剤として、Linkのベースとなる暖かなトーンが見えてくる。

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photo: we+

5. 既存のリサイクルマテリアルにはない表現を追求し、素材の特性を活かしながらもモジュールとして安定した製法を探っていく。

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photo: we+

6. 粒度の違いや配合の割合によってさまざまな色と模様が現れる。100種類以上の素材を実験し、500パターンものサンプルを制作。

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7. モジュールを地層のように積み重ね、スツールのような家具や壁に生まれ変わらせる。廃材だった木や鉄が繊細な表情を見せる。

※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。