映画『ジギー・スターダスト』がリバイバル上映。デヴィット・ボウイによる伝説的ライブが蘇る

  • 文:上村真徹

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© Jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC

洋画・邦画ともに注目作品の多い年末年始。1973年にデヴィッド・ボウイがロンドンで行った伝説的ライブの模様を収録したドキュメンタリー映画『ジギー・スターダスト』の見どころを紹介する。

【あらすじ】名盤『ジギー・スターダスト』誕生から50年…伝説のライブが蘇る!

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異星から来たバイセクシャルのロックスター“ジギー・スターダスト”に変身したデヴィッド・ボウイ。© Jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC

2022年は、音楽史に名を刻むいまは亡きデヴィッド・ボウイにとって2つのメモリアルイヤーにあたる。1つはボウイの生誕75年。もう1つは、ロック史上屈指の名盤にして、ボウイをスーパースターに押し上げたアルバム『ジギー・スターダスト』の発売50周年だ。そんな2022年の1月7日(ボウイの誕生日前日)を皮切りに、『ジギー・スターダスト』ワールドツアーの締めくくりとしてロンドンのハマースミス・オデオン劇場で行われた伝説的なステージを記録した同名ライヴ・ドキュメンタリー映画が劇場で公開される。

5年後に滅びようとする地球に異星からやってきたスーパースター「ジギー・スターダスト」にデヴィッド・ボウイが扮し、ロックスターとしての成功からその没落、絶望から復活までを描く──。この壮大なコンセプト・アルバムを世に送り出し“グラムロックの旗手”として人気を拡大したボウイは、1972年から73年にかけてイギリス、アメリカ、日本でワールドツアーを敢行。本作はその最終公演の模様を撮影し、「君の意志のままに」から「ロックン・ロールの自殺者」まで全17曲(※)のパフォーマンスを余すところなく収めている。

※ジェフ・ベックが加わった3曲(「ジーン・ジニー」「ラヴ・ミー・ドゥ―」「ラウンド・アンド・ラウンド」)はベックからの要望によって映画では省かれている

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【キャスト&スタッフ】ボウイのカリスマ性に惚れこんだクリエイターたちの才能が結晶

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デヴィッド・ボウイの当て字「出火吐暴威」を記したケープも山本寛斎が手がけた衣装。© Jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC

この伝説的なライブをフィルムに収めたのは、ボブ・ディランのパフォーマンスと素顔に迫る『ドント・ルック・バック』で音楽ドキュメンタリーの歴史を変えた、アカデミー賞名誉賞受賞監督D.A.ペネベイカー。米国ラジオ会社RCAから「ボウイの『ジギー・スターダスト』ライブを30分間撮影してほしい」というオファーを受けたペネベイカー監督は、撮影前日のライブを見てボウイのカリスマ性に惚れこみ「映画という器にふさわしい個性の塊だ」と直感。映画用のサウンドミックスなど技術的なハードルに悪戦苦闘しながら、1973年に長編ドキュメンタリーを完成。その後、2002年にボウイの主導によってドルビー5.1方式にリミックスされたデジタルレストア版が製作され、今回の上映にはこの素材が用いられている。

当時のステージ衣装には、ロンドンでコレクションを発表して間もない27歳の山本寛斎が参加。両性具有的なイメージを前面に押し出していたジギー・スターダスト時代のボウイの魅力が、和物柄も織り交ぜた山本寛斎のユニセックス・スタイルによって、ロック・シーンにおけるワン・アンド・オンリーな存在として際立っている。また、シュガーベイブのベーシストだった寺尾次郎が全曲の歌詞翻訳を含む字幕を担当し、楽曲のグルーブを重視した意訳で見る者をトリップさせる。なお、2016年にボウイ、2018年に寺尾次郎、2019年にペネベイカー、2020年に山本寛斎が相次いでこの世を去っていて、今回の上映は彼らを追悼するためのものでもある。

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【見どころ】ジギーに変身したボウイが一分の隙もなく奏でる壮大なロック・オペラ

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唯一無二のジギー・ワールドに陶酔するオーディエンスの熱狂も映像に収められている。© Jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC

映画は、ライブ本番直前にボウイが談笑しながらメイクに臨む楽屋での姿から幕を開ける。そのリラックスした表情から一転、ステージに立つや“ジギー・スターダスト”に変身したボウイは、宇宙人を思わせる奇抜な衣装やメイク、さらにカリスマ性に満ちたパフォーマンスによってコンセプト・アルバムの世界観をビジュアルでも体現。ジギーのバック・バンドの目線でジギーの隆盛と没落の物語を描き出した「屈折する星くず」や、絶望からの復活を叫ぶ「ロックン・ロールの自殺者」まで一分の隙もないジギー・ワールドを展開し、壮大なロック・オペラを奏で上げる。さらに、曲に応じて衣装を着替える楽屋シーンも挿入することで、いつも“何か”を演じて変身し続けたボウイの生涯のテーマまで具現化されている。

また本編では、ボウイの一挙手一投足に熱狂し陶酔するオーディエンスの姿も映している。実はもともと映画の撮影を想定していなかったため客席の照明が暗めだったが、事前に「フラッシュ付きカメラを持参してできるだけたくさんの写真を撮ってほしい」と観客たちに訴えかけて客席の明るさを増した。その結果、オーディエンスの存在感を顕著にすると同時に、ボウイを撮りまくるカメラのフラッシュを通じて観客の息吹を感じさせている。さらにその断続的な光は、ほの暗いステージに立つボウイを妖しく幻想的に演出し、この世のものではない何かを見ているような感覚へと誘う。

スクリーンに映し出される映像とリマスターされた迫力のサウンドを全身に浴び、ロックの歴史に残る伝説的ライブのオーディエンスの一人になれる──。そんな至高の体験をこの機会に味わいたい。

『ジギー・スターダスト』

監督/D.A.ペネベイカー
出演/デヴィッド・ボウイ、ミック・ロンソンほか 1973年 イギリス映画
1時間30分 1月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ、1月28日(金)よりUPLINK吉祥寺他全国順次公開

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