フラワーアートと陶芸の邂逅──ニコライ・バーグマン×奈良祐希のセッション展『JAPANDI-NA』とは?

  • 写真・文:中島良平

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ニコライ・バーグマン(左):国内外にフラワー・ブティック、カフェ、アートギャラリーを展開するほか、2022年春には箱根・強羅にNICOLAI BERGMANN HAKONE GARDENSをオープン予定。奈良祐希(右):石川県金沢市の大樋焼窯元に生まれる。東京藝術大学で建築を学び、3D CADなどテクノロジーを駆使した設計技術と大樋焼の伝統技法の融合を試みる。2021年に建築デザインラボ EARTHENを設立。Penクリエイター・アワード2021で審査員特別賞を受賞。

デンマークに生まれ、北欧デザインのミニマリズムに日本の美学を融合したフラワーアートで、20年にわたって活躍を続けるニコライ・バーグマン。350年以上の歴史を誇る茶陶、大樋焼の窯元に生まれた陶芸家で建築家でもある奈良祐希とセッションし、共作を発表する展覧会『JAPANDI-NA』が、Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2Fで12月15日から開催される。バーグマンは最初に奈良の作品を見た時の印象を次のように語る。

「フラワーアーティストとして日本でさまざまな陶芸を扱ってきましたが、奈良さんの作品はいままで見たことのない面白い表現だと感じました。ミニマルで、モダンさがある。今日は奈良さんの最初の作品である器「Bone Flower」に花を活けましたが、難しいとも感じた。花を挿す口が意外と狭いから、一般的な人が使うとしたら一輪挿しみたいに扱うと思うけど、さすがにフラワーアーティストが一輪だけ挿すわけにはいきません」

そう笑うバーグマンに、「Bone Flower」に活けた際のポイントを聞くと、まずは白い器と色のハーモニーを生み出すために選んだのが、ピンク色が鮮やかなネリネ。器の鋭角的なかたちとシンクロするような花びらを持ち、ダイヤモンドリリーとも呼ばれるこの花をまず選んだ。ピンクに加え、グリーンで動きをもたせようとデザインしたという。

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「Bone Flower」に活けた花を前に、説明するバーグマン。フラワーアートを手がける際には、何度も回転させながらあらゆる方向から見て隙のない完成度を目指すという。

「作品として3つの見方を考えています。まず、器と花が組み合わさってひとつの作品として楽しめること。2つ目と3つ目は、器と花それぞれを単独でも楽しめる。奈良さんの器を見てから花のデザインを考えるのですが、奈良さんの作品と同じ強度を備えたフラワーアートにしたいと思い、1枚1枚の羽根のようなパーツの間から中も楽しめるように花とグリーンをレイアウトしました」

「スリットから花が覗いていたり、建築的に構成されていて面白いですよね」と話す奈良は、作品『Bone Flower』のことを次のように説明する。

「空へと飛び立っていくスワンの羽根のイメージでデザインしました。タイトルは『骨の花』という意味ですが、白い磁土が原料なので骨のイメージがあり、羽根の部分が花弁みたいなものとリンクしているとも思ったので、このタイトルにしました。窯で焼いているときに小さなウインドウから中が見えるのですが、1260度で焼かれているときには、羽が動いているように見えるんですよ。高温で焼かれているときは柔らかい土の状態で、それを3日ぐらいかけて冷ますのですが、その過程で固まっていく。そうするとまたイメージが変わるんです」

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器のデザインで重要なのは「余白」

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「今回の展示は、単なるコラボレーションではなくセッション。フラワーデザインや陶芸というひとつのカルチャーにとどまらず、マルチカルチャーが融合してアートとして表現される流れが、必ず生まれると思っています」と奈良。

奈良の作品は、オブジェクトとして造形を味わうことができる。また、器としても機能するため、花を活けて茶室の床の間に飾り、客人をもてなすためにも使用できる。空の状態と花が活けられた状態。そのバランスをどのようにイメージして制作するのだろうか。

「僕は余白と表現しているのですが、作品だけでは完結しなくて、そこに空気みたいなものを内包するようなものづくりをしたいと考えています。上へと伸び続けるようなイメージが生まれたり、暗いところでスポットが当たると白い光のオブジェのようになったり、そうした余白をつくるために影をとても大事にしています。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』じゃないですけど、影を愛でるのは日本のDNAだと思っていて、そこを計算しながら器を手がけています」

今回の展覧会では、まず奈良が制作した器があり、器からインスパイアされたバーグマンがフラワーアートを手がける。作品は10点あまり。そこには、バーグマンのシグネチャーとも呼べるフラワーボックスをテーマにした新作も含まれる。

「今回の展覧会は『JAPANDI-NA』というタイトルで、日本とスカンジナビアのエッセンスを表現していますが、日本のミニマリズムのことを考えると、その源流には禅の思想があると思っています。鈴木大拙(だいせつ)という金沢の哲学者が禅の思想を説いているのですが、そこで、まる・さんかく・しかくというシンプルな図形があらゆるものを含み、それをユニバースだと言ったんですね。宇宙なんだと。僕はニコライさんのボックスの四角に、丸と三角の器を持ち込んで、まる・さんかく・しかくが融合したような器を制作します。タイトルは『ザ・ユニバース』です。そこにニコライさんがどんなフラワーアートを手がけてくれるのか、本当に楽しみです」

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奈良は余白を備えた作品を手がけ、バーグマンはそこから受けたインスピレーションをフラワーアートに託す。そのプロセスがセッションとして化学反応を生み出す。

展示はどのように完成するのだろうか。建築家でもある奈良の空間構成が、花とグリーンのエキスパートであるバーグマンの感覚と融合するはずだ。バーグマンはそのプロセスにおいて、「新鮮」であることの重要性を次のように話す。

「まず器がインスピレーション源となって、その日にある花を見てデザインは決まります。作品の半分ぐらいは、器とその日の花のマッチングだけを考えて制作しますが、残りの半分ぐらいは、私はベースと呼んでいるんですが、花を挿す前の段階でグリーンのスカルプチャーみたいなものを用意して、そこに当日の花を加えるようなやり方もします。作品ができあがってから会場にふたりでセットアップすると思うのですが、器ができて、花ができて、空間があったら会場を構成するのは私たちとしたら簡単なことだと思います。“Planning kills creativity(計画は創造性を殺す)”という言葉がありますが、全部準備してレイアウトするのではなく、その場で気持ちが生まれて緊張感を持って会場構成することを大事にしたいです。そうすれば最後にスパークが生まれるはずですから」

セッションとしての展覧会。それは「俳句のようであり、漫才のようでもあるかもしれない」と奈良は話す。それぞれがボケとツッコミを繰り出し、有機的に相乗効果が生まれ、ブラッシュアップされた作品が会場を埋め尽くす。両者の哲学が出合い、器と花の化学反応が生まれた空間へと足を運び、その波動を全身で受け止めたい展覧会だ。

ニコライ・バーグマン×奈良祐希『JAPANDI-NA』

開催期間:2021年12月15日(火)〜2022年1月14日(金)
開催場所:Nicolai Bergmann Flowers & Design Flagship Store 2F
東京都港区南青山5-7-2 2F
TEL:03-5464-0716
開場時間:11時〜18時
休業日:2021年12月29日~2022年1月4日
無料
https://www.nicolaibergmann.com
http://yukinara.jp

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