雑誌を通して、ものづくりの“視点”を問いかける【Penクリエイター・アワード審査員特別賞 小野直紀】

  • 文:中島良平

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5-広告_著作特集号.jpgPen クリエイター・アワード、2021年の受賞者がいよいよ発表! 今年は外部から審査員を招き、7組の受賞者が決定。さらに審査員それぞれの個人賞で6組が選ばれた。CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

審査員特別賞 原野守弘 選

<COMMENT>
博報堂に所属しつつ社外にデザインスタジオを立ち上げるなどマルチな活躍ぶり。編集長を務める『広告』では「流通」や「価値」などの問いかけを含む特集のクオリティの高さが出色だった。

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小野直紀●1981年生まれ。2008年に博報堂入社。15年に博報堂社内でプロダクト・イノベーション・チーム「monom(モノム)」を設立。社外ではデザインスタジオ「YOY(ヨイ)」を主宰。18年にはカンヌライオンズのプロダクトデザイン部門審査員を務め、19年に雑誌『広告』の編集長に就任。挑戦的な企画で注目を浴びる。

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大学では建築を専攻し、卒業後に入社した博報堂ではコピーライターとして働いていたこともあるように、小野直紀は幅広くものづくりに興味をもってきた。社内では「monom(モノム)」を設立してテクノロジーを用いた製品開発を行い、社外ではデザイナーの山本侑樹とともに「YOY(ヨイ)」を運営し、プロダクトデザインに携わってきた。2019年、博報堂の雑誌『広告』の編集長に就く話があった時は、そもそも「いいものをつくる」とはどういうことなのか、その疑問に向き合うことで、ものづくりの本質を深く考える機会になるはずだと考えた。

「いちクリエイティブディレクターとしてではなく、雑誌をつくる人間として人に会いに行くとなると会い方も変わってきますし、つながり方も変わってくるはずです。メディアを通していろいろなスタンスの方のものづくりに対する考えを知り、『いいものをつくる、とはなにか?』を思索する雑誌ができると考えました」

週刊誌や月刊誌のようにファストな情報をどんどん出すのでもなく、かといって書籍ほどのどっしり感をもつでもない。「ちょっと立ち止まって考えるような雑誌」をイメージした。手がけた1号目のテーマは「価値」。文化人類学者のインタビューなど33本の記事をまとめた680ページの雑誌を1円(税込)で販売するという、挑戦的な試みで話題を集めた。

「編集に携わったことのない人間が雑誌づくりの真似事をしても、大したことはできません。そこで、広告と雑誌の中間のような、雑誌自体が自らのことを情報として伝えていくようなことができないかと考え、特集テーマを『価値』とした上で、分厚い雑誌を1円で販売することにしたのです」

値付けは、ものづくりにおいて重要な要素だ。しかし、博報堂はこの雑誌『広告』を、利益を出すために販売しているわけではない。であるならば、対価を考える際に「1円」という価格自体が意味をもつと考えた。1年に1冊、1号ごとに決めた特集テーマに合わせて判型を変える方針のもと、2号目は「著作」をテーマに著作権や作品性について問いかける号をつくった。オリジナル版を2、000円で、古いコピー機で全ページを複写して制作した「セルフ海賊版」を200円で販売。続く3号目は、ものづくりにおける「届け方」への問題意識から、「流通」をテーマに制作した。

「編集コンセプトは、『視点のカタログ』です。いいものをつくるための視点や考え方を、各号のテーマを切り口に蓄積させる。ネット上で話題になったり、議論されたりということが起こらなくても、何年後かになにかが生まれる種になればと考えています」

22年に刊行される4号目の特集テーマは「虚実」。哲学的な考察が「いいものをつくる」ための視点としてどう表現されるのか、いまから楽しみだ。

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『広告』「流通」特集

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ものをつくり、消費者にどう届けるか。そんな問いに真正面から向き合うべく特集テーマを「流通」にしたところ、奇しくもコロナ禍で状況の変化に直面したという。段ボール箱で届く商品の便利さと、ある種の気持ち悪さ。書店や取次、運送会社などを表紙に記し、全250種の流通経路を可視化することで、「ものと流通の関係」に目を向ける入り口となることを目指した。

『広告』「価値」特集

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2019年に小野が編集長に就任し、7月に発行したリニューアル第1号。ものの価値の感じ方は、価格によって影響される。価値によって価格が決まることはあっても、価格によって価値が決まることはないはずなのに。従来から抱いていたというそんな疑問から、「ものの価値」について考える手がかりとなる特集「価値」号を編集し、1円で発売した。

『広告』「著作」特集

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オリジナル版(左)を2,000円で、セルフ海賊版(右)を200円で発売した2号目。オリジナリティとはなんなのか。コピーするのはいけないことなのか。『法のデザイン』の著者で法律家の水野祐を監修に迎え、倫理観にも訴えかけるテーマを扱った。誌面に登場するのは、小説家の島田雅彦や作詞家のいしわたり淳治、パクリ文化研究家の艾君など。

RADO TRUE SQUARE UNDIGITAL AUTOMATIC プロダクトデザイン

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デザイナーの山本侑樹と共同主宰するYOYとスイスの時計ブランド、ラドーとのコラボレーションで20年11月に発表。デジタル時計の表示形式である7セグメントディスプレイがモチーフの針で、「アンデジタル」な腕時計をデザインした。素材には耐傷性に優れたハイテクセラミックスを用い、9.6㎜という超薄型と軽量性を実現。

ペチャット プロダクトデザイン

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ぬいぐるみに付けるボタン型スピーカー。専用アプリによって入力したセリフをしゃべったり、歌を歌ってくれたり、物語を読んでくれたり、ぬいぐるみを通して子どもの心を通わせる力を育むことができる。monomと博報堂アイ・スタジオが企画・開発を実施。「ほぼ自動おしゃべりモード」を搭載した新型モデルも発表された。

CREATOR AWARDS 2021特設サイトはこちら。

※この記事はPen 2022年1月号「CREATOR AWARDS 2021」特集より再編集した記事です。

雑誌を通して、ものづくりの“視点”を問いかける【Penクリエイター・アワード審査員特別賞 小野直紀】

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