洋画・邦画ともに注目作品の多い12月。濱口竜介監督初の短編オムニバス『偶然と想像』の見どころやあらすじを紹介する。
【あらすじ】人生を静かに大きく揺り動かす、「偶然」をテーマにした3つの物語

共同脚本を手がけた『スパイの妻』が2020年の第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)に輝き、監督・脚本を手がけた『ドライブ・マイ・カー』が2021年の第74回カンヌ映画祭で脚本賞など4冠を受賞した濱口竜介。いま、世界が注目する日本人監督の最新作にして、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)に輝いた『偶然と想像』が、12月17日から劇場公開される。
本作は「偶然」という共通のテーマをもつ、3つの異なる物語によって構成される。
第1話「魔法(よりもっと不確か)」:撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子は、仲の良いヘアメイクのつぐみから気になる男性の話を聞かされる。つぐみが先に下車した後、芽衣子は運転手に“ある場所”を行き先として告げる。
第2話「扉は開けたままで」:大学で出席日数が足りなくなったゼミ生・佐々木は、作家でもある教授の瀬川に単位取得を認められず、就職内定も取り消されてしまう。逆恨みを抱いた彼は同級生の奈緒に共謀をもちかけ、色仕掛けで瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
第3話「もう⼀度」:高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子は、駅のエスカレーターであやとすれ違う。2人は20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むが、やがて彼女たちの関係性に想像もしない変化が訪れる。
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【キャスト&スタッフ】濱口竜介と個性派俳優たちが“日本映画の新時代”を切り開く

自らの映画監督としての原点である短編映画に対して「自分の映画作りのサイクルのなかに加えたい」という思いを抱く濱口監督は、『ハッピーアワー』などで組んだ高田聡プロデューサーに今回の企画を持ち込み、同じテーマによる全7本の短編製作を提案。その中から最初に脚本を執筆した3本をまとめ、「偶然」というテーマで結ばれた本作が誕生した。
各エピソードの出演者はオーディションを中心に選び、NHK連続テレビ小説『エール』で一躍注目された古川琴音をはじめ、中島歩、森郁月、甲斐翔真らフレッシュな顔ぶれをキャスティング。さらに、過去の濱口監督作に出演経験のある玄理、渋川清彦、占部房子、河井青葉らに声を掛け、個性豊かな俳優陣が集結。軽やかで精緻、そして遊び心を感じさせる演技で、良質な短編小説をサラッと読んでいるような感覚を味あわせてくれる。
また、今回の撮影に使われたカメラはわずか1台だという。カメラマンの飯岡幸子が一人で切り盛りし、フォーカスも彼女自身がつとめるというミニマムな体制で撮影され、どこかドキュメンタリーを思わせる距離感と空気感の映像に仕上がっている。
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【見どころ】独自のリハーサル体制で、文字から映像へと物語を肉体化

濱口監督の製作スタイルで独自かつ重要なのが、ホン(脚本)読みを中心とするリハーサル。今回も、1話につき1週間から10日間、ひたすら俳優たちと脚本を読み合わせた。しかも、感情を込めずに台詞を読んで「その人の体から自然と出てきた言葉に思える」まで繰り返すことによって、俳優とキャラクターとのシンクロ性を極限まで高めると共に、俳優たちから新たな魅力を引き出す“仕込み”として奏功している。
また、「リハーサルをやって、撮影をやって、またリハーサルを挟んで撮影をやる。撮影そのものがリハーサルになっている部分もあったかもしれません」と濱口監督が振り返るように、リハーサルと撮影の垣根を取り払いながら、時間をかけてじっくり製作したことも本作の完成度を高める大きな要因となっている。撮影現場ではその都度台詞も映像も柔軟に修正・変更し、文字から映像へと物語を確実に肉体化していった。入念に準備を重ねると同時に即興的な感覚も生かす──そうした絶妙なバランス感覚こそ、濱口作品を唯一無二たらしめるものであろう。
長編映画ほど構える必要もなく、それでいて長編映画さながらに見ごたえ十分。優しい肌触りと軽妙なエスプリが感じられ、“短編集”としての温かい後味も格別。まさに日本映画の新体験だ。
キャスト&スタッフ
監督・脚本:濱口竜介
出演:(第1話)古川琴音、中島歩、玄理
(第2話)渋川清彦、森郁月、甲斐翔真
(第3話)占部房子、河井青葉
『偶然と想像』
監督/濱口竜介
出演/古川琴音、中島歩ほか 2021年 日本映画
2時間1分 12月17日(金)よりBunkamura ル・シネマほかにて公開
https://guzen-sozo.incline.life/
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