『東洋の魔女』の伝説に迫る、フランス人監督が手掛けたドキュメンタリー映画が公開

  • 文:上村真徹

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©UFO Production ©浦野千賀子・TMS

洋画・邦画ともに注目作品の多い12月。1964年の東京オリンピックで日本中を熱狂させた女子バレーボール代表の“いま”と当時の熱狂に迫るドキュメンタリー『東洋の魔女』の内容と見どころを紹介する。

12月の注目映画

【あらすじ】1964年10月23日20時55分、日本中が歓喜した快挙の秘密を解き明かす

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1964年東京オリンピックの決勝戦、女子バレーボール日本代表は回転レシーブを駆使してソ連代表を破り、悲願の金メダルを獲得する。©UFO Production ©浦野千賀子・TMS

2021年夏で2度目の開催となった東京オリンピック。その57年前の1964年、戦後復興の象徴として初めて開催された東京オリンピックは、空前の盛り上がりを見せた。なかでも国民を歓喜の渦に巻き込んだのが、当時世界から「東洋の魔女」と恐れられた女子バレーボール代表の金メダル獲得。彼女たちの快進撃の裏側と当時の熱狂ぶりに迫ったドキュメンタリー映画『東洋の魔女』が、12月11日から劇場公開される。

1964年の東京オリンピック・女子バレーボール代表の原点は、1954年に大日本紡績株式会社が各地の工場にあった女子バレーボール部を統合して設立した「貝塚工場・女子バレーボール部(ニチボー貝塚)」。監督に就任した大松博文は、「鬼の大松」と恐れられるほど徹底したスパルタ式トレーニングで国内最強のチームへと鍛え上げた。

その後、照準を世界に定めたニチボー貝塚は、海外標準の6人制バレーに対応する戦法として“回転レシーブ”を開発。ニチボー貝塚の選手を中心に編成された日本代表チームは快進撃を繰り広げ、1962年の世界選手権ではソ連を破って悲願の初優勝を達成。世界選手権後、彼女たちは一時引退を表明するが、2年後に控えた東京オリンピックでバレーボールが正式競技に採用され、世間の期待に応えるべく現役続行を決断。この決断が2年後の世紀の瞬間につながった。

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【キャスト&スタッフ】記録映像と当事者たちの肉声で明かされる“東洋の魔女”伝説

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左上:レシーバーの松村好子、右上:アタッカーの半田百合子、左下:レフトの谷田絹子、右下:セッターの松村勝美。©UFO Production ©浦野千賀子・TMS

本作を手がけたのは日本人ではなく、実は海外のクリエイターだ。ジョン・マッケンローを追った『完璧さの帝国』などアスリートたちに焦点を当てたフッテージ・ドキュメンタリーで高い評価を得た、フランスの奇才ジュリアン・ファロ監督。今回も市川崑の記録映画『東京オリンピック』やスポ根ブームの産物『アタックNo.1』などの映像、さらに戦後日本の風景もふんだんに織り交ぜ、女子バレーボール代表が巻き起こした熱狂ぶりを多面的かつ鮮明に解き明かしていく。

さらに注目すべきは、いまでは80代に差し掛かっている代表選手たちが当時の思い出を振り返るインタビュー。いまもなお若々しく人生を謳歌する“魔女たち”の姿を『誰も知らない』などで知られるカメラマン・山崎裕が撮影し、57年前の伝説を等身大のドラマとして現代へと蘇らせている。

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【見どころ】スポ根アニメと“アニメのような現実”がクロスオーバーした新感覚ドキュメンタリー

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“東洋の魔女”とスポ根アニメとの共通性を見出したというファロ監督。©UFO Production ©浦野千賀子・TMS

ファロ監督が本作を手がけたきっかけもまた面白い。1964年に日本オリンピック委員会によって製作されたバレーボール関連の16ミリフィルム映像を見たファロ監督は、“東洋の魔女”たちの過酷な練習風景に衝撃を受けると共に、『アタッカーYOU!』など海外でもポピュラーな日本製スポ根アニメと似た雰囲気であることに関心を抱いたという。つまり、世界的に有名な日本の漫画やアニメの原点に迫るというアプローチが本作の原点であり、サブカルチャーの観点からも興味深く見られるドキュメンタリーと言える。

その一方、ファロ監督は漫画やアニメに引っ張られすぎることなく、また東洋の魔女を伝説化するかのような記事や文献を鵜吞みにしなかった。まずは音声録音という形で“魔女”たちの証言を集め、その発言内容に合わせて撮影場所をセレクト。彼女たちの肉声と映像をボイスオーバーさせ、声と場所が鏡写しのように反響し合うような効果を生み出している。さらに、記録写真のモンタージュを挟んだり、無声のアーカイブに音楽をつけて感情の起伏を生み出すなど、フッテージ・ドキュメンタリーの名手ならではの手腕も堪能させる。

私的な記憶と公的な記憶、現実と虚構を巧みに織り交ぜ、時代を超えて生き生きと蘇った“東洋の魔女”伝説。海外クリエイターの一歩引いた視点があってこそ生まれた、実験的かつ新感覚のドキュメンタリーがここにある。

『東洋の魔女』

監督/ジュリアン・ファロ
2021年 フランス映画
1時間40分 12月11日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

『東洋の魔女』の伝説に迫る、フランス人監督が手掛けたドキュメンタリー映画が公開

  • 文:上村真徹

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