直しながら長く使える腕時計は、そもそもエコな製品だ。さらに近年は、環境に配慮した素材を使用するなど、未来への架け橋となるプロダクトも生まれている。
優れた製品を長く愛し抜く。それは我々が生きる社会の未来を見据えた消費行動でもある。とりわけ腕時計は、定期的にメンテナンスを行えば、いつまでも使い続けることができるエコな製品だ。なかでも機械式時計の多くは、美しい自然の中でつくられている。細かい作業はストレス負荷が高いため、周辺環境をとても重視しているのだ。それゆえ時計ブランドは、環境意識がきわめて高い。工場を建設する際は、厳しい環境基準に合わせるのが当然となっている。
その意識は外にも向けられており、自然環境保護活動を行う団体をサポートするのはもちろんのこと、近年は時計素材そのものにもSDGsの考え方を取り入れるようになっている。たとえば大きな問題となっている廃棄プラスチックを回収するだけではなく、ケースやストラップといった、より価値あるものへと転換する。すなわち“アップサイクル”することで、環境負荷を減らし、自然に対する意識をより広く伝えるのだ。
さらにそうした技術をオープンソース化して他社にも広げようというパネライや、プラスチック・イノベーション賞を設立して研究者のサポートを行うトム フォードなど、活動の幅は広がっている。
サステイナブルであること。その価値観を共有し人生をともに歩むこと。それもまた時計選びの新基準となるだろう。
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〜再生プラスティックケース〜
PANERAI(パネライ)
サブマーシブル eLAB-ID

ケースのチタン素材はもちろんのこと、ムーブメントのパーツや夜光塗料のスーパールミノバ、そして心臓部である脱進機など、時計全体の質量の98.6%がリサイクルベースの素材でつくられている、世界初の画期的な腕時計。しかもこの技術をオープンソース化し、時計業界全体が使えるようにする姿勢も特別なこと。環境に対する新しい動きがここから始まる。
ALPINA(アルピナ)
シーストロング ダイバー ジャイル ジェンツ オートマチック

海中を漂い、海洋生物の命を危険にさらす廃棄漁網を回収しケース素材として再生した。ストラップや保管ボックスもエコ素材を使用している。
TOM FORD(トム フォード)
トム フォード オーシャンプラスチック タイムピース

デザイナーのトム・フォードは、海洋環境保護を目的とした「トム・フォード・プラスチック・イノベーション賞」を設立。さらにケースとストラップの素材は、海や海岸などで回収された海洋プラスチックを100%原料とする腕時計を製作した。この腕時計ひとつで、ペットボトル35本分のプラスチックに相当するという。スイスメイドの確かな技術とスタイリッシュなデザインを活かしたエシカルな腕時計は、ラグジュアリーの新しいあり方を提示している。
BAUME & MERCIER(ボーム&メルシエ)
ボーム 10590

海から回収した廃棄プラスチックを加工したケースに、陽極酸化処理を施した鮮やかなグリーンのアルミニウムを組み合わせた。売り上げの5%を寄付し、海洋保全に役立てる。
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〜ヴィーガンレザー 〜
CARTIER(カルティエ)
タンク マスト

1917年に誕生し、長年愛されてきた「タンク」が、現代的に進化を遂げた。搭載するムーブメントは約16年の耐久年数を誇る光発電式の「ソーラービート」で、電池交換が長期間不要のため廃棄電池を削減。インデックスを抜き、下のソーラーセルに光を当てて発電するので、王道のデザインは変わらない。しかもストラップに用いたのは、廃棄リンゴなどを使用した再生素材。デザインもつくりも、長く愛せる理由がある。
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〜エシカルゴールド〜
CHOPARD(ショパール)
L.U.C クアトロ スピリット 25(左)アルパイン イーグル ラージ(右)

ジュエラーとしても名高く、多くの貴金属を使用するショパールは、素材のトレーサビリティとフェアトレードに注力し、労働者や環境に配慮し倫理的に採掘された「エシカルゴールド」のみを採用。デザインやムーブメントだけでなく、信念も美しい。
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〜海洋保護〜
ORIS(オリス)
アクイス デイト アップサイクル

プラスチックゴミが外洋に広がることを防ぐプロジェクトを長年にわたって支援しているオリス。その活動を啓蒙するために生まれたダイバーズウォッチは、海から回収した再生PETでダイヤルを製作。そのマーブル模様は、エコである一方で、一点ずつ表情が異なり、現代アートのような趣をつくり出す。耐傷性の優れるセラミックベゼルや高い防水性能など、ダイバーズとしての機能性も申し分ない。
ULYSSE NARDIN(ユリス・ナルダン)
ダイバー レモンシャーク

海洋時計の名門ユリス・ナルダンは、海洋自然保護活動を行うNPO団体をサポート。このモデルは絶滅危惧種のサメ、レモンシャークをイメージし、ブラック×イエローの配色を採用した特別仕様。
BREITLING(ブライトリング)
スーパーオーシャン ヘリテージ’57 アウターノウン

1957年に誕生したダイバーズウォッチを復刻。パートナーシップを結ぶレジェンドサーファー、ケリー・スレーターのアパレルブランド「アウターノウン」とのコラボレーションで製作した、海洋廃棄物からリサイクルした再生ナイロンストラップを装着。
CARL F. BUCHERER(カール F. ブヘラ)
パトラビ スキューバテック モルディブ

海中を優雅に泳ぐマンタ(オニイトマキエイ)は、ダイバーたちの憧れ。その生態系を守るための団体・マンタトラストをカール F. ブヘラは2013年からサポート。ストラップには地中海で回収したリサイクルPETを使用。文字盤の波模様も美しい。
※この記事はPen 2021年12月号「腕時計、この一本と生きる」特集より再編集した記事です。