ブラジルの家具デザイナー、ザルスピンの美しき私邸を公開

  • 文:仁尾帯刀
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ロビーの天井は曲線を描いてなだらかに中二階の天井に続く。12月15日まで、20世紀を生きた家具デザイナー、ジョアキン・テンレイロの作品を展示。

2020年8月に98歳で他界した家具デザイナー/建築家のジョルジ・ザルスピンの私邸が21年7月からアートと家具の展示場として訪問者を受け入れている。

1922年にポーランドのワルシャワで生まれたザルスピンは、第二次世界大戦で荒廃した母国を離れ、デザイナー/建築家としての活動の場を求めて50年代にブラジルに移住。59年にサンパウロで立ち上げたラテリエは、当時ブラジルで有数のモダン家具ブランドとして成功をおさめた。ブラジリアの連邦最高裁判所本会議場の椅子や机を手がけたことなどから、ブラジルのモダニズムの発展に貢献したひとりとして数えられている。

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戦後ヨーロッパの荒廃から逃れ、ブラジルで感じた居心地を家具の制作に投影したと言われるジョルジ・ザルスピン。©Acervo Família Zalszupin

サンパウロ市の高級住宅区ジャルジン・アメリカに立地する「カーザ・ザルスピン」は、ザルスピンが設計し、1962年に建てて以来約60年にわたって暮らした私邸だ。他界に伴い、遺族にはこの物件を売却する意向があったが、高級家具ブランドのエテルが遺族から借り受けて展示会場に変え、アートギャラリー「アルメイダ&デール」とのコラボで企画展を行っている。

1993年創業のエテルは、ブラジルのトップデザイナーの家具を手がける高級ブランドで、リナ・ボ・バルディやオスカー・ニーマイヤーなどの世界的にも知られる亡き巨匠らの家具のレプリカを制作することでも知られている。ザルスピンの家具のレプリカは2006年から手がけている。

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アート作品や日用品が広がるザルスピン生前のロビーの様子。Photo by Leo Brito

ザルスピン生前の私邸の室内は、妻がアートコレクターだったこともあり、雑然としていたが、生活臭の一切を取り払って展示場として生まれ変わったことにより、1階ロビーと中2階のロフトの天井がなだらかな曲線で続く、元来の建築美が感じられる空間となっている。敷地面積700㎡、延べ面積542㎡とブラジルの一戸建て高級住宅としてはさほど広くはないが、かつてのダイニングルームのフロアが階段3段分低く設計されていたり、備え付けの暖炉の上に階段が配置されていたりと、建築家としてのこだわりと遊び心が随所に感じられるつくりとなっている。

エテルは近い将来、この私邸をザルスピンの文化的功績を広めるためのレファレンスセンターとする予定。なお展示会への訪問にはホームページから事前予約が必要だ。

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「カーザ・ザルスピン」の外観は生い茂る樹木により隠されたファサード。都会の住宅街にあって森にいるような感覚を覚える。

カーザ・ザルスピン
https://www.casazalszupin.com