【小山薫堂の湯道百選】第六二回 “湯は、縄文の扉を開く。”

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂

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都心からクルマで30分足らずの川崎市内に、これほど極上の温泉があったとは!まさにサプライズ&ハピネス。あまりの嬉しさに小躍りしたくなった。

住宅街の中に突如出現する小さな森の中に「志楽の湯」は存在する。都会の健康ランドとは一線を画する古民家風の佇まい。細部にまでこだわりぬき、全体を監修したのは熊本県黒川温泉を再生したカリスマ旅館経営者の故・後藤哲也氏だった。八ヶ岳山麓から切り出した230トンもの安山岩と、九州から運んできた大量の自然木を組み合わせ、2005年に七種類の浴槽を備えた温泉施設が完成した。自然豊かな露天風呂もいいが、凛とした気を漂わせる内湯に私は惚れた。湯の中にそそり立つ御柱が、ここを湯道の道場のように感じさせる。熱過ぎずぬる過ぎず絶妙の温度を保つ琥珀色の湯は数十万年前から地層の隙間に閉じ込められていた太古の海水で、化石海水と呼ばれる。突出した量のミネラルを含み、タラソテラピー的な効果を期待できるという。座禅を組むような姿勢で湯に浸かり目をつぶると、この湯を開いた柳平彬さんの言葉が頭をよぎる。「我々が学ぶべきヒントは縄文時代にある」

独創力溢れる発想で失敗を恐れず挑戦を続けた縄文人たち。彼らは自然を克服するのではなく、自然をように暮らしていたという。川崎矢向は、かつて縄文の森が広がっていた。悠久の時を経て、大切なメッセージを受け取った気がした。縄文天然温泉と謳われているこの湯で。

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JR南武線矢向駅から徒歩5分。住宅街の工場跡地を縄文天然温泉にした。平屋建てで延べ床面積は約1700㎡。まがたま形状の水風呂、120年前に製作された味噌樽を湯船にした「味噌樽風呂」など、ユニークな風呂を数多く設置している。

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木や石の形状や配置にこだわり、川崎・矢向に古の時代の「縄文の森」の雰囲気を取り戻した。

<神奈川県川崎市>
志楽の湯
SHIRAKU NO YU

住所:神奈川県川崎市幸区塚越4-314-1
TEL:0120-650-711
営業時間:10時~24時
無休
料金:一般¥990(月~金)¥1,170(土、日、祝)
https://www.shiraku.jp/

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