京都に行けばとりあえず、京極スタンドに顔を出し、これから始まるめくるめく日々に想いをめぐらす。大阪に行けば夕方必ず、南田辺のスタンドアサヒに足が向いてしまう。そんなレジェンドな存在たちのネーミングにリスペクトしながら、さらに頭に「大衆食堂」という文字を付け加えることで、昭和の飲める大衆食堂のムードをプラスして、瞬く間に大阪の夜を席巻したのが「大衆食堂スタンドそのだ」だ。
当時、「魚と日本酒とマメな接客」を売りにする店が多かった大阪で、あえて「肉とレモンサワーとほっといてくれる接客」を打ち出し、ニュートラルなグルーヴ感で老若男女あらゆる層を集客する繁盛店になった。
その後、全国にたくさんのコピー店を出現させた「そのだ」がいよいよ東京・五反田に進出。コロナ禍の中でのスタートとなったが、9月11日のグランドオープン以来、早くも行列が絶えない人気店になっている。
これまで、関東では味わうことができなかった「そのだ」の味と、関西ならではのエンタメ感とは!?
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まずは、会社員からDJ、ラーメン屋を経て「大衆食堂スタンドそのだ」を作り上げたオーナー・園田(崇匡)さんが、東京の東側の大衆酒場にインスパイアされて作り出した名物のバイスを飲もう。「3杯まで」という謳い文句も、立石の宇ち多゛あたりを彷彿とさせる。ただ、立石では実際に3杯以上飲むと正体を失くしてしまうが、ここでは客のチャレンジ精神を鼓舞させる導火線となっている。さすが、関西だ。
東の酒場では、バイスやハイサワー、ホッピーは焼酎と割材が分かれて出てくるが、ここではあらかじめシャーベット状になっていて、アルコール度数も低く飲みやすい。しかも、レトロなキャラクターのグラスに満たされて出てくるので、アルコールを飲んでいるという罪悪感は皆無。もちろん、女性たちには大好評、まずはグラスのキャラクターから酒場トークに花が咲く。

店を出す前には、毎週のように東京に通ったという園田さん。大きなコの字カウンターは南千住の丸千葉や大林酒場など、名だたる大衆酒場を思い出させる。あえてテーブル席を設けないことで、友だち同士も、1人客も違和感なくその場に馴染むことができる。壁に並ぶ手書きの短冊メニューも、居酒屋気分を盛り上げてくれる。


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例えば、京極スタンドが誕生した昭和2年には、店のスタッフたちは30代から40代だったはずだ。だから、今も並ぶ洋食メニューは当時はハイカラで新しかったに違いない。だったら、今の時代に誕生する大衆食堂には、今の30代が考える新しいスタンダードがあってもいいはずだ。
羊肉や、パクチー、よだれ鶏、パテ、ナンプラー…。幸い、アジア料理に特化した姉妹店「台風飯店」も経営しているから、エスニックなテイストには自信があった。


別に飲みたいわけじゃない、おなかがペコペコな訳じゃない。でも、そのまま家には持ち帰れない、痛みや怒り、寂しさをほぐすために、喜びや微笑みは誰かと一緒に分かち合うために、人は行きつけの店を持つのかもしれない。大きく店名が染め抜かれた日本的な暖簾と、ハイウェイ沿いのダイナーみたいなネオンサイン。自分たちの世代が作り出した、西からやってきた大衆酒場で、名物のバイスでも飲んで帰ろうか!?
きっと、帰り道には心が軽くほぐされているはずだから…。

大衆食堂スタンド そのだ 五反田店
東京都品川区東五反田1丁目15-5 第5宮本ビル1F