スポーツカーをサブスクする、究極の解答とは?

  • 文:多田潤

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ポルシェ専用トラックがオープン!

毎回、ポルシェのネタから始まってしまいますが、今回は先日10月1日に千葉県木更津市にオープンした「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」の話。この施設、通常の路上では試すことのできないスポーツカーの性能を感じることのできるメーカー主導のコースなのです。

ひとつ間違ってはいけないのは、ここはサーキットではないということ。占有コースはニュルブルクリンク北コースやアメリカのラグナ・セカの有名なコーナーを模してあるものの、実際にコースを走ってみるとコース幅は狭く長さも短いことに気づかされます。ここはあくまで「ハンドリングトラック」という名の試乗コースで、クルマを限界性能で走らせる場所ではありません。ローフリクションハンドリングトラック(低ミューのハンドリング路)、ドリフトサークル(定常旋回のスキッドパッド)、ダイナミックエリア(スラロームやフルブレーキが可能な場所)、オフロードエリアなど7種類のモジュールがありますが、すべて安全第一です。詳しくは以下の小川フミオさんの記事をご覧ください。

クルマ好きの新名所、ポルシェエクスペリエンスセンター東京が登場!

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ニュルブルクリンク北コースにある有名なコーナー、カルーセルを模したハンドリングトラックのコーナー。全長は2.1km。

この施設全体の建設費は50億円と発表されています。気になる利用料金は90分で4万4000円(車種によって異なる)~。なかなかの値段に感じますが、施設運営費やインストラクターの人件費などを考えれば、むしろリーズナブルかもしれません。ではなぜ、日本で年間8000台程度の台数を輸入販売するプレミアムスポーツカーメーカーが多額の投資をするのか? そこには将来に向けた戦略が見え隠れします。

すでにご存知のように日本も含め、多くの先進国では、エンジン車やディーゼルのような内燃機関の自動車販売は中止される方向にあります。速さや馬力を誇る内燃機関の花形であるスポーツカーの姿が大きく変わるのは確実です。EVなどの電動化に加え、もうひとつ注目されているのが所有形態の変化です。

音楽や本などに代表されるサブスクリプション(サブスク)が自動車所有においても確実に進みます。すでに浸透したカーシェアリングは、その一例。ただ近所のスポットでポルシェやフェラーリのようなスポーツカーは借りられませんし、高級車レンタカー屋を利用するとしてもその高額なレンタル料金やリスクを考えると、現実的ではありません。

では、プレミアムなスポーツカーを操る喜びを安全で公平かつ、末長く享受するためにはどうしたらいいか? その解答こそがこの施設にあるのです。東京の施設は世界で9番目、ドイツやアメリカ、中国などではすでに営業中でポルシェ好きにはすでに話題のスポットになっています。年々厳しくなる環境性能に対応しながら、スポーツカーを操る楽しみを忘れないための解答としては模範的ではないのでしょうか。

10年でこの施設を償却するために、現在と同じ新車販売台数をポルシェジャパンが続けるならば、1台あたり約6万円強の利益が必要になります。ポルシェの部品代で考えるとホイール1本分くらいでしょうか。ポルシェというプレミアムスポーツカーブランドだからできる特別なビジネスでもあるのです。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。

多田 潤

『Pen』所属のエディター、クルマ担当

1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。