ムーミンの生みの親の自由を渇望した半生――。映画『TOVE/トーベ』で知る名作の舞台裏

  • 文:山下紫陽

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戦時中に爆撃を受けて荒廃したウッランリンナ通り一番地の部屋を借り、アトリエを自分の手で改装。この部屋のインテリアにも注目して。

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世代を超えて世界中で愛されてきたムーミントロールの物語を生み出したアーティスト、トーベ・ヤンソン。誰よりも自由を求め、絵画、文学、コミックス、舞台芸術など、さまざまな表現の間で悩みながら、自らの運命を切り拓いていった彼女の半生を描いた映画『TOVE/トーベ』が、2021年10月1日(金)より全国で順次公開される。

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ムーミントロールをはじめとした個性的なキャラクターを生み出したトーベ。本作の製作にはトーベの姪、ソフィア・ヤンソン率いるムーミンキャラクターズ社も全面参加したという。

第一次世界大戦が勃発した1914年にヘルシンキで生まれたトーベ。父ヴィクトルは国内では著名な彫刻家だったが、収入は不安定だったため、ヤンソン家の生活はフィンランドの切手を数多くデザインしたことでも知られるイラストレーターでグラフィックデザイナーの母シグネが支えていたという。ともあれ、芸術一家に生まれたトーベは、2人の弟とともに子どもの頃から絵画や彫刻に親しみ、必然的にアートの道に進むこととなったようだ。

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物語は第二次世界大戦下、激しい戦火の中でトーベがムーミントロールの物語を描き始めたところから始まる。娘に正統派の画家として活躍してほしい厳格な父は、トーベのイラストを批判し、二人の間には常に軋轢が。第二次ソ連・フィンランド戦争(継続戦争)が終結した1944年、トーベは自らの作品制作に集中するべく、ウッランリンナ通りにある爆撃で廃墟のようになったアパートの一室をアトリエとして借り、ここから彼女の人生は大きく広がっていく。

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若い芸術家や政治家などを集めたパーティーで出会ったトーベとアトス。スナフキンのモデルとなったアトスとは、恋人としての関係が終わった後も生涯にわたって親しい友人であり続けた。

保守的な美術界の中で息苦しさや焦りを感じつつ、自分の表現を模索した若き日のトーベ。本作の軸となっているのは、そんな彼女が出会い、恋に落ちたり、友情を育んだりしながら、アーティストとしても大きな影響を受けることになる人々との交流だ。戦前には恋人でその後友人となった画家のサム・ヴァンニなど、同世代の芸術家仲間。左派の国会議員で哲学者として、また作家・ジャーナリストとしても活躍したアトス・ヴィルタネン。そして、舞台演出家でブルジョワ階級出身の既婚女性、ヴィヴィカ・バンドラー。彼らはトーベを励まし、彼女が大きく飛躍するのを後押しした。

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トーベによって満たされ、また傷つきながらも、長きにわたって彼女を支え続けたアトスは、スナフキンのモデルとも言われており、とにかく優しい。偏見や差別の目を持たず、正義感が強い彼は、トーベの作り出す物語を絶賛。ムーミントロールの物語の第一弾『小さなトロールと大きな洪水』が出版されたのは彼の助言のおかげだったと言える。一方、トーベが人生で初めて激しい恋に落ちた女性、ヴィヴィカは、もっと自由になるようにと彼女を刺激。当時のフィンランドでは同性愛は犯罪とされていたため、2人はお互いだけに通じる言葉を作り、お互いをトーベの「To」からとったトフスラン、ヴィヴィカの「Vi」からとったビフスランと呼び合った。もちろん、トフスランとビフスランはムーミントロールの物語の登場人物としてお馴染み。

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ヴィヴィカ(中央左)の依頼でトーベは初のムーミン劇『ムーミントロールと彗星』の脚本を手がけ、成功を収める。

物語の後半には、トーベが生涯を共にすることとなるフィンランドを代表するグラフィックデザイナー、トゥーリッキ・ピエティラとの出会いも描かれるが、本作ではまだその扱いは大きくない。ただ、トゥーティッキ(おしゃまさん)のモデルとしても知られる彼女の登場が、トーベの安定した後半生への導入ともなっているように思えるのが嬉しい。

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本作はフィンランドにおいて、スウェーデン語(トーベはスウェーデン語系フィンランド人であり、執筆はすべてスウェーデン語で行われている)で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録。第93回アカデミー賞国際長編映画賞にはフィンランド代表として選出されたほか、数々の映画賞を受賞している。監督のザイダ・バリルート(『僕はラスト・カウボーイ』『グッド・サン』『マイアミ』)、脚本のエーヴァ・プトロ、撮影のリンダ・ワシュベリといった女性チームの素晴らしい仕事ぶり、トーベを演じたアルマ・ポウスティ、ヴィヴィカを演じたクリスタ・コソネン、アトス役のシャンティ・ローニーなどの俳優陣の熱演ぶりは必見。いかにもアーティストらしいトーベのアトリエや、それとは対照的に洗練されたヴィヴィカの邸宅などのインテリアもよく作り込まれているし、アーティストたちが集まるパーティーの場面で流れるベニー・グッドマンやグレン・ミラー楽団などの音楽も素晴らしい。ムーミン好きだけでなく、多くの人に観てほしい作品だ。

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『TOVE/トーベ』

監督:ザイダ・バリルート
出演:アルマ・ポウスティ、クリスタ・コソネン、シャンティ・ロニー、ヨアンナ・ハールッティ、ロバート・エンケルほか
2020年 フィンランド・スウェーデン映画 103分
配給:クロックワークス
2021年10月1日(金)、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー
http://klockworx-v.com/tove/

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