池袋の「ラシーヌ」が、評判のドーナツひっさげて表参道に進出。地域密着型スタイルはやはりここでも!

  • 写真・文:高橋一史

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北青山の新店舗「ラシーヌ ドーナツ&アイスクリーム」のドーナツ。

今回はしばし前置きのお話を。
私が店やイベントのレセプションによく行く理由と関連することなのですが。

20代の若かりしメンズファッション誌編集者時代に、年に1、2回ロンドン、ミラノ、パリ、ニューヨークらに撮影出張に行ってました。
というとカッコよさげですけど、スタッフ人数を減らすため私がスタイリストも兼任していた貧乏出張。
山ほどの服をトランクに詰めて日本から運び、ホテルの部屋でひとりで徹夜でアイロン掛けてモデルの脚に合わせてパンツを裾上げし、翌日は数本のファッション撮影。
(ほぼすべて広告絡みのタイアップ)
撮影が終わるとフォトグラファーはホテルに寝に帰り、その間に私はモデル事務所にギャラの支払いに行き(現金払い!)、ホテルに戻って日本とFAXでやり取りし(メールなんかない時代)編集作業を行い、夜になるとスタッフに夕飯を食べさせるため眠気を必死にこらえてコーディネーターさんにレストランに連れてってもらい。
部屋に帰ると領収書を整理しながら、再び翌日の撮影準備をしてラフコンテ描いて徹夜、という旅。

いやもう、旅なんて言葉は当てはまりませんわ。
さすがにあんな仕事をいまの若い人に「お前もやれ」なんて言えませんわ。
そしていま自分で同じことできるかっていえば、絶対ヤですわ。

そんな出張のさなかにスタッフがよく口にしていたのが、
「仕事じゃなくてプライベートで来たかったねー」
の一言。
よくあるコメントではあるものの、私はちょっと意見が違ってたんですよ。
ストレスの波に溺れそうな毎日でしたが、
「仕事で来たから楽しいんじゃん?」
と。

日本に来日しても誰も雇ってくれない個性派すぎるファッションモデルばかり集めた現地のモデル事務所のドアを開き、そこで働くマネージャーたちの様子も眺められる経験なんて、プライベート旅行じゃ無理ですから。(in ロンドン)
朝8時に超ハイヒール姿のキメキメの姉さんたちが走るようにオフィスに飛び込み、席に着くなりバリバリ働きはじめるベルサーチェのパワーも学べませんから。(in ミラノ)
自社の受付にレッドカーペットを敷き、トロ〜ンとした目つきで髪くるんくるんの若いセクシー受付嬢が座るデスクの前に立ち、「ドルチェ&ガッバーナっておもしれ〜」と思うことなんて仕事で行ったからこそ。(in ミラノ)

すみません、めったにやらない昔話を長々としちゃいました。
久々に思い出したもので。
何が言いたかったかというと、仕事絡みだから得られることがたくさんあり、それがいちばん面白いということです。
とくにフード系のレセプションでは企画者、シェフやパティシエ、運営者らとお会いできるケースが多く。
平社員から企業トップまで様々な立場の人から現場で同時に話を伺えるのは、とてもワクワクする経験なのです。
プライベートで食べに遊びに行くよりぜんぜん面白くて。

今回ご紹介するのは住居、保育園、商業施設をひとつの敷地にした東京・北青山「ののあおまや」内に9月27日(月)にオープンした、
「ラシーヌ青山」「ラシーヌ ドーナツ&アイスクリーム」。
レセプションで何よりよかったのは、運営会社「グリップセカンド」代表取締役社長の金子信也さんにお会いできたこと。
名刺交換での短い話のなかで、単なる利益のための出店ではない地域密着型であることを知りました。
全国の食材の生産者の支援にもつながっていることも。
コロナ禍で日本の生活と産業を見つめる動きが広がるなかで、注目すべきビジネスモデル&次世代カルチャーがここにありそうです。

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入り口はひとつで右(写真手前)がレストラン、奥がドーナツなどのテイクアウトショップ。

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ドーナツ、アイスクリーム、コールドプレスジュースが取り扱いの中心。

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「ブーランジュリーがつくるブリオッシュ生地のドーナツだからおいしい」(金子さん談)。2個ほど買って食べてみましたが、確かに細かく切ってパンと言われて出されたらドーナツと気づかないような、クドさのない味わい。

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生産物廃棄をなくすことにも、健康にもつながるコールドプレスジュースも大切なメニュー。

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ドーナツと並ぶメインメニューがアイスクリーム。日本産食材のもの多し。

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和栗のアイスを買って食べてみました。氷っぽいシャキシャキした食感。ケース内のポップに書かれた説明はちょっと大げさかなあ。わりとあっさりに感じました。

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東京建物、三井不動産、独立行政法人都市再生機構がつくり上げた敷地。その軸は25階建てで2〜25階までが住居の「クラス青山」。敷地内に保育所があるからだと思いますが、小さな子供が多いです。

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2020年にできたばかりで、まだ人工的な印象が拭えない植樹。時が経てば自然な姿に変わっていくのでしょう。

朝の情報番組に登場しそうな店のキャッチポイントは以下。

1. 池袋で一日、1,500個売るベーカリー製ブリオッシュ生地のドーナツを表参道で食べられる!
2. ドーナツに加えてアイスクリームも展開!
3. 併設してレストランもあるから、池袋の行列ビストロ「ラシーヌ」の味をここでも!
4. 自然がいっぱいの敷地でお散歩タイムも充実!

金子社長に話を伺ったあとの私のワクワクポイントは以下。

1. アイスクリームもコールドプレスジュースも、B・C品(規格外品)のフルーツを全国の農家から買取り、無駄をなくし支援するため考案されたもの。ドーナツにもこのフルーツが使われている。
2. 行政とともに公園づくりした「南池袋公園」では敷地内のゴミ捨てやトイレ管理までグリップセカンドが手掛けている。「ののあおやま」でも近隣住民と結びつく地域密着型の運営をしている。
3. 千駄ヶ谷のほうまで続く北青山地域には下町っぽさがあり(金子さん談)、一等地にも関わらず意外とローカル。
4. 敷地内ではビアガーデンも計画され(緊急事態宣言後)それ用にレストラン内にブルワリー設備を設けている。マルシェを行う計画もある。

とくに興味深かったのは全国の農業と、都市部の一等地とを結びつけようとする試み。
食で街づくりに関わっていくやり方に未来へのヒントがある気がして。
「廃棄しない日本の食材だから食べよう」と考える人はこれからどんどん増えていくでしょう。
コロナ禍になり自国の産業が見直され、服も「日本製だから着る」と考えて購入する行動原理も生まれてますし。
スマホの契約キャリアも、日本にきちんと法人税を払い社会貢献する会社だけが選ばれるようになったり(ん?)。

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場所は伊藤病院裏手の通りにある「とんかつ まい泉」と、外苑前駅の地上出口を一直線状に結んだ中間あたり。(こんなんでわかります……?)

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レストランにはバーカウンターも。コロナ禍後にフル活用されるのでしょう。

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席数は店内に約60席、テラス席も最大約30席設置可能だそう。

8月に試食会イベントにお呼ばれした最高級ホテルの「ホテル椿山荘東京」「パレスホテル東京」でも感じたことですが、スタッフさんたちが海外組でなく日本生まれの存在であることに誇りを持ち、「自分たちらしいモノづくりをしよう」、と熱心になっています。
その姿勢が、なんだかとても心地いいのです。
ナショナリズムとも違い、同じ国で生きる人たちと生活に根ざした発想で関わることに頼もしさを感じて。
私のような超絶捻くれ者でも感化される現代日本の“社会派クリエイティブ”に触れられるから、レセプション巡りはやめられないのです。

All Photos © KAZUSHI

RACCINES AOYAMA/RACINES DONUT&ICE CREAM

東京都港区北青山3-4-3ののあおやま1階

https://instagram.com/racines_aoyama

https://instagram.com/racines_donutandicecream

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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