映画『MINAMATA』について、ユージン・スミスと闘い抜いた当時の妻・アイリーンにインタビュー

  • 文:岩崎香央理

Share:

  • Line

DMA-1-0422_MINAMATA.jpg
工場廃水が原因のメチル水銀中毒により、人々を苦しませてきた水俣病。その真実と背景、患者らの戦いを世に知らしめた、1975年発表のユージン・スミスとアイリーンの写真集を原案に、ジョニー・デップが製作、主演を務めた。日本の実力派俳優陣も出演し、坂本龍一が音楽を手がけた。© 2020 MINAMATA FILM, LLC

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】

フォトジャーナリスト、ユージン・スミスが人生をかけて撮った水俣病ルポ。その時期をともに歩んだ当時の妻アイリーン・美緒子・スミスと、ユージンのアシスタントを務めた石川武志が、映画『MINAMATA』とユージンその人について語り合った。

DMA-4-アイリーン1.jpg
DMA-3-石川武志宣材写真.jpg
(左)アイリーン・美緒子・スミス/Aileen Mioko Smith。1950年、東京都生まれ。スタンフォード大学在籍中にユージン・スミスと出会い、アシスタントに。71年ユージンと結婚(78年離婚)、水俣の取材を開始。75年に写真集『MINAMATA』(80年に日本語版、三一書房)をユージンと出版。
(右)石川武志/Takeshi Ishikawa。1971年よりユージンのアシスタントとなり水俣を取材。75年、フリーランスの写真家に。82年よりインドのトランスジェンダー社会、ヒジュラを取材。2012年、『MINAMATA-NOTE 私とユージン・スミスと水俣』(千倉書房)を出版した。

---fadeinPager---

アイリーン:この映画が企画された時、ユージンと水俣の患者さんのことや、写真集『MINAMATA』のいきさつを監督に知ってもらうため、直接伝えに行きました。とはいえ映画はフィクションであり、つくり手が生み出すもの。私はエッセンスが伝わることが大事だと思っています。観た人が、水俣の事件やユージンの写真についてもっと知りたくなる、そんな願いが表現されています。
石川:エンターテインメントとしてよくできているし、ジョニー・デップもユージンそのものに見えましたね。

─おふたりもよく知る水俣の実在する人々が描かれているそうですね。

アイリーン:ひと目であの人とわかる役もあれば、何人かがブレンドされ、普遍的な患者像を表した役もある。
石川:智子ちゃん(ユージンの写真『入浴する智子と母』で知られる水俣病患者・上村智子さん)をユージンが抱っこして歌うシーンは、彼らしい感じがよく出ていました。
アイリーン:智子ちゃんとの場面は象徴的ですね。ユージンの優しさと子ども心、田舎っぽいユーモアね。

─雑誌『LIFE』とのジャーナリズムを巡る葛藤や、ユージンの心の変化についてはいかがでしたか。

アイリーン:彼はアメリカで鬱を抱えていたけれど、水俣行きを決意してからは、心は穏やかだったと思う。
石川:やる気に満ちあふれていたし、映画にも出てくる五井事件でケガをするまでは、健康的で体力にも自信があった。すごく頼もしかったですね。
アイリーン:頑として諦めない人ですし。夜中に彼が石川さんに、自分の考えをどうにか伝えようと、情熱を込めて語ったこともありましたね。
石川:当時、水俣病の原因には諸説があり、報道によって誤解や差別が引き起こされていたんです。それで私は「メディアは信用できない」と言えばいいものを「ジャーナリズムなんて信用しない」と言ってしまった。仕事のことでユージンに怒られたことはないけれど、その時は感情をあらわにして「だからジャーナリズムが大事なんだ」と、必死に訴えかけていた。

─水俣を撮って50年が経ったいまも、彼の写真が人々を突き動かしています。

石川:ユージンは水俣に来た時からフォトエッセーを制作すると決めていた。だから患者、工場、漁師の写真など、なにが撮れていてなにが撮れていないか、とトータルで考えていました。その中で忘れられない彼の言葉があります。「写真は小さな言葉であ
る」と「私は写真の力を信じている」。
アイリーン:人間のありのままを見せること。悲しんでいたら悲しみを、強ければ強さを、悪であれば悪を伝える。先入観や偏見を真実へ近づけるのがジャーナリズムの使命だと、ずっと彼は信じていました。同時に、アートとジャーナリズムは相反するものではなく、ひとつであるということも。その信念が根底にあり、かつ子どもっぽいユーモア、あるいは鬱。そのすべてから、ユージンの写真は生まれてきたんだと思います。

---fadeinPager---

DMA-2-R-12-28.jpg
石川武志が撮った、水俣病患者の田中実子とユージン・スミス。ユージンは田中家へ通い実子を撮った。©Takeshi Ishikawa

DMA-5-サブ7-©Larry-Horricks.jpg
加害者であるチッソの社長を演じたのは、國村隼。汚染の実態を突き止めようと試みるユージンとの駆け引きが印象的。© Larry Horricks

DMA-6-サブ3©-Larry-Horricks.jpg
チッソに補償を求める運動が起こる。先頭に立つ住民を真田広之が、アイリーンを美波が演じる。

『MINAMATA―ミナマタ―』

監督/アンドリュー・レヴィタス
出演/ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信ほか
2020年 アメリカ映画 1時間55分
9月23日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
https://longride.jp/minamata/

関連記事

YouTube

映画『MINAMATA』について、ユージン・スミスと闘い抜いた当時の妻・アイリーンにインタビュー

  • 文:岩崎香央理

Share:

  • Line

Hot Keywords