ライカに惚れ込み愛用する者は、みな口を揃えて「レンズが素晴らしい」と語る。1954年に登場して以来、現在も進化し続けるMシステムの交換レンズの魅力とは?

レンズを変えれば、写せる範囲が変わる。視覚の転換という、実に写真的な行為を支えてくれるのが交換レンズだ。ライカMシステムが登場したのは1954年。それまでのライカレンズは単純にネジを切っただけのスクリュー式で、交換時にクルクル回す必要があったが、新設計のM型ライカではバヨネット式と呼ばれるマウントが採用された。バヨネットとは銃剣を意味し、銃に銃剣を装着するごとく、迅速にレンズを交換することが可能だ。
ライカMレンズは、65年間にわたり不変のマウントを採用している。撮影者がピント調節のため距離リングを操作した角度に応じてレンズ後端のカムが動き、ボディマウント12時位置の筒状のコロが押されることにより光学式距離計と連動する。まるで機械式腕時計の内部のような、伝統に根ざす機構が継承されている。
カメラボディの中に扇動するミラーを配置した一眼レフと比較して、光学式距離計を採用したライカMシステムはレンズ設計の自由度が高く、同等の性能を発揮するのにコンパクトなサイズで実現できるという特徴をもつ。フルサイズのミラーレス一眼用レンズと比べても、圧倒的に持ち運びに有利なサイズの交換レンズが揃っている。
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ズームレンズではない、潔い視点の交換レンズ
ライカMシステムの交換レンズには画角を連続的に変化させられるズームレンズは用意されていない。3種類の焦点距離をもつ「トリ・エルマー」を除けば、一本のレンズが捉える画角は固定された単焦点だ。レンズを決めてファインダーをのぞき、後は自分自身が被写体までの距離を調節して動かなければならない。ズームリングを指先で操作するのではなく、フットワークで写真を撮る。レンズを選択するということは、覚悟を決めること。この潔さが、作画の迷いを排除してくれる。
現行のラインアップは18mmの超広角から135mmの望遠までが揃っているが、28・35・50mmという3つの焦点距離から選択すれば、ライカMボディの撮影フレームの醍醐味を満喫できるだろう。それぞれの焦点距離で、明るさ(開放f値)の異なる何種類ものレンズが用意されているのも、ライカMシステムの魅力だ。ライカのレンズには、明るさに応じた名称がある。f2・8は「エルマリート」、f2は「ズミクロン」、f1・4であれば「ズミルックス」といった具合だ。
広角の28mmはダイナミックな作画が可能なスナップショットの定番レンズ。コンパクトさを重視し機動力を高めたいならエルマリート、定番ならズミクロン、広角でもピントの合った範囲を狭めて背景のボケを活かしたいならズミルックス、さらに戦前のライカレンズを復刻したレトロテイストのズマロンという選択肢もある。

35mmはライカ使いが好んで選ぶ焦点距離。背景とモチーフをバランスよく画面に収められる万能の画角だ。手頃な明るさとサイズ感のズマリット、小型ながら盤石の描写で定評のあるズミクロン、レンズ開放で攻めの作画が楽しめるズミルックスの三択となる。

50mmは、いわゆる標準レンズと呼ばれる人間の視覚にフィットした焦点距離。視界を適度に切り出し、風景からポートレートまで幅広く対応する。カジュアルなズマリット、永遠の定番として君臨するズミクロン、同じ明るさで解像性能を究極まで追い込んだアポ・ズミクロン、シャープなピントが持ち味のズミルックス。そして世界で初めて非球面レンズを採用し、とろけるようなボケ感が魅力のノクティルックスと、個性的な役者が揃う。

ライカMシステムのレンズは、総金属製の鏡筒に精緻な機構と究極の光学系を搭載し、電子部品をもたない。永き使用に耐え、愛着を抱き続けられる、まるで宝石のような存在だ。
※この記事はPen2019年3/1号「ライカで撮る理由。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。