コロナ禍でも楽しめる、これからのライブ・イベント業界の新しいカタチとは?

  • 文:ローレン・ローズ・コーカー

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前回のコラムニスト記事では、私の経歴とZAIKOという企業についてお話しました。今回は、ZAIKOの事業についてもう少し詳しくお話させていただきながら、コロナ禍で揺れ動くライブ・エンタメ業界の最新イベント形式を実例とともにに紹介し、ライブ・イベントの未来について考えてみたいと思います。

弊社ZAIKOで有料配信イベントの取扱いが多くなったのは2020年の2月にコロナによるパンデミックが発生してからです。以前までは、小さなスタートアップとしてイベントの電子チケット販売プラットフォームを開発、運営していました。チケットぴあやイープラスのような大手プレイガイドと違って、誰でも自分でイベント登録ができて、そのチケットを販売できるサービスです。そのため、他のプラットフォームと違い、いち早く配信ライブの有料化ができるプラットフォーム機能と、リアルで開催されるライブのチケット販売機能の「両方」を兼ね備えていました。

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「ZAIKO」にて過去に配信されたceroのライブ配信の様子。

ライブ・イベント業界では、コロナウイルスが蔓延してから、「無観客ライブ」や「有料配信ライブ」など、いわゆる「デジタルイベント」が主流になってきました。現在も、感染者数の再拡大が深刻な中で、音楽フェスを、オンライン配信や無観客で開催するように変更できないかという国からの要請にあわせて、イベント形式を変更するフェスもあれば、配信と感染対策をしっかり行った有観客を両立させて開催するフェスもあります。主催者としてもさまざまな思いを抱え、試行錯誤が続いています。開催を応援する音楽ファン、アーティストもたくさんいますが、もちろん批判する方もいます。配信イベントに簡単に変更できない理由はいくつもありますが、経済的な理由がいちばん多いと感じています。現に配信イベントでリアルのイベントのように収益を上げられなかったり、時には赤字になってしまうケースも見受けられます。そうしたこともあり、コロナの状況下でも有観客イベントを開催する事例は多いのが現状です。有観客形式による批判によって、イベントの中止や延期により苦しんでいたアーティストがイベントを実施してもさらに困ってしまう。そんな悪循環も発生してしまっています。

しかしながら、インターネット経済がわかる人なら、配信イベントが本来であれば逆にコストを抑えられるはずだということもわかると思います。ネットビジネスにすることで、人件費の削減や在庫のリスクが少なくなるからです。たとえば、1990年から始まった30年の歴史があるeコマースのケースをみてみると、メーカーが販売元に卸して売ってもらう代わりに、業者を通さず消費者に直接販売することで中間マージンがかかっていないことがわかります。戻ってくるお金が増えるので、間違いなくeコマースの方が儲かることになります。

実際、D2C型に代表されるようなeコマース事業はコロナの影響で急成長しており、さらに浸透して来ました。

それではなぜフェスのようなライブ・イベントを全部オンラインに切り替えないのか?「配信イベント」の方が制作に関わる費用が抑えられ利益率が上がるのでは? みなさんもそう思いませんか?

ZAIKOで9000本を超える有料配信ライブを取扱い、さまざまなライブ形式を間近で見てきた私の経験から、ライブ・イベント業界でも、eコマースと同じようにデジタル化を図り、「デジタルイベント」として利益を出せるようになるには、下記3つのことが起こらないと難しいのではないかな?と考えています。

①リアルとデジタルの「イベント」定義の違い

いままでのライブ業界では、「イベント」というのはリアルな場所に人が集まって、限られた時間でなにかのパフォーマンスを体験することを指していました。そして「配信イベント」はいままでリアルで行ってきたイベントをそのままスクリーン(携帯やテレビ)を通して観せることでした。ですが、イベントをオンライン化し、利益を出すためには、従来の「イベント」定義の考え方ではないアプローチが必要です。そんなオンラインによる新しい見せ方のイベントを、ここでは「デジタルイベント」とします。「デジタルイベント」とは、より複雑な仕組みを活用し、ただスクリーンを通して映像を観せることだけにとどまらない特有の体験を提供するイベントです。たとえばゲームの3Dの世界の中にアーティストが登場しライブを楽しむことや、複数のスクリーンで違う体験をする(ライブチャットや演奏、そしてVJ)ことが可能になります。他にもリアルのイベントではなかなか体験できない楽屋のシーン、リハーサルのシーン、アフタートークなども視聴できるようになります。このように「イベント」自体のリアルとデジタルによる定義の違いを主催者と消費者の両者が認識することが必要ではないかと考えます。 

バーチャルコンサート.PNG
ZAIKOとAnifieのパートナーシップによる、バーチャルコンサートのイメージ。

②グローバルに視野を向ける

eコマースもそうですが、獲得可能な総消費者市場がデジタル化することで全世界が対象になります。ZAIKOでも協力をさせていただいた「AKB48 Group Asia Festival 2021 ONLINE」を例にしてみると、オンラインで開催されることによって、ひとつのイベントに国境を超えたファンが集い、視聴・参加することで一緒に楽しむことが可能になりました。オンラインイベントではチケットの販売の売り切れの上限がなく、アーカイブを残すことによって、時差や仕事などで参加が難しい方にも字幕をつけて楽しんでもらうことができます。他にも、世界進出を目指すアーティストがパフォーマンスをする場としてイベントを行うこともできます。実際にオンラインでイベントを開催することによって、セルフプロモーションとして知ってもらうきっかけづくりになったり、世界のどこに自分を応援してくれているファンが多いのかなど、データ収集ができたり、金銭面での利益以上に手に入るものが大きいです。このようなことは、いままでのような会場で開催されるライブのみでは実現できませんでした。ライブの開催場所がデジタル上になると、全世界が参加対象になるのはとても貴重で革新的なことです。

AKB.jpeg「AKB48 Group Asia Festival 2021 ONLINE」

③アーティストとファンの“距離”を近づける

eコマースなら、製造元・販売者と消費者のやり取りの距離が近いほど、間に入っている販売業者、流通、などにかかるコストが抑えることができるので、利益率をあげることができます。イベント業界では「製造元」がアーティストやイベント主催者の場合が多いです。リアルイベント(会場に観客を動員するもの)の場合、少人数体制で開催をすることは難しいです。個人では、大きい会場をおさえることは難しいし、受付やグッズ販売、観客誘導などにはスタッフの人数も必要、会場の規模にあわせて照明や音響などの技術者も必要になります。それに加えてライブは「生」で行う事業のため、より運営の複雑さがあります。しかし、「デジタルイベント」にすると、事前収録と生放送を織り混ぜることが可能になり、受付スタッフなども必要ない、グッズ購入はネット経由になり、コストを抑えてひとりで借りることができるようなスタジオで開催することが可能になってきます。そのため「アーティスト」という製造元がファンに近くなるほど、利益率は上がるはずですよね。「デジタルイベント」という新たなイベント形式で利益を挙げていくためには、アーティスト自身とファンの“距離”を近づけることがキーになります。しかし、いまのライブ・イベント業界はアーティスト発信の事業というより、間に入っている業者のビジネスが中心となってつくられてきたものなので、セオリー通りに利益をあげることが難しい状況にあるのも事実です。

Digital Event Flow_ver1.jpg

上記の3点からもわかるように、正直なところ、有料配信で成長することができている会社の経営者としては、コロナの影響で「会場でイベントを開催する!」という選択肢がなくなってしまい、仕方なく有料配信に切り替えるという状況はあまり理想的に思えないんです。いまはどうしても手探り状態で、「デジタルイベント」がリアルイベントの代わりであると捉えられてしまうことは仕方がないと思います。「デジタルイベント」の本当の可能性は、これからクリアに見えてくるようになると思います。

まだ配信イベントが普及してから2年も経っていなく「デジタルイベント」としてはまだまだスタートラインです。けれどイベントビジネスをする主催者はもちろん、消費者の動きも今後は変わってくることは間違いないと考えています。イベントを企画するとき、デジタルイベントの定義を意識して、グローバルな仕組みを入れながら、アーティストとファンの“距離”が近い形で創り出されるデジタルイベントが成功し、長く続くことになると思います。いまから「デジタルイベント」を実験的に取り組んでいる人たちが、その未来を担っていくことになると思います。

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。