Youはなにしに日本へ?

  • 文:ローレン・ローズ・コーカー

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電子チケットサービスを中心とするデジタルプラットフォームを提供する企業、「ZAIKO」取締役COOを務めるローレン・ローズ・コーカー。

私は、日本に来てから、さまざまな立場でライブ・エンタメ業界を見てきました。ライブでアーティストとファンの間に巻き起こる感動は、なににも変えることができない素晴らしい体験です。私の人生を変えてくれたエンタメ業界で、自分だからこそ出来ることや、いままでにない新しいものをさまざまな形でアーティストやイベント主催者の皆様に提供し、少しでも活動をサポートできるよう日々奮闘しています。


私は、2019年1月に「ZAIKO」という電子チケットサービスを中心とするデジタルプラットフォームを提供する企業を立ち上げました。ZAIKOでは、アーティスト・イベント主催者ファーストを理念に、変化の激しいライブ・エンタメ業界にデジタルテクノロジーを駆使して、ポジティブな変化をもたらすサービスを開発・提供しています。私のコラムでは、いままでの自分の経験や、現在ZAIKOの取締役として日々考えていることを通して、ライブ・エンタメ業界の“いま”を伝えていきたいと思います。

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2019年1月に立ち上げたデジタルプラットフォーム「ZAIKO」(https://zaiko.io)のサイトトップ。

まずは、皆様に私を知っていただきたいので、初回は、私の自己紹介をさせていただきます。

私、Lauren Rose Kocher(ローレン・ローズ・コーカー)は、アメリカのシカゴから車で1時間ほど離れたインディアナ州の小さな町で育ちました。いまでこそ音楽やエンタメが大好きですが、昔からエンタメ業界に興味があったわけではなく、むしろ、学生の時は真面目なタイプでした。一人で本を読むことが好きで、SFや古代エジプトの文化に熱中していましたね。高校では、成績もトップで、自分で思い返してみても勉強ばかりしていたなと思います。大学は、周囲から皮肉を込めて “Where fun comes die.”と言われるほど真面目に勉強する人が集まるシカゴ大学に進学しました。高校の時に日本人留学生が学校に来ていたことや、難しい言語・遠い国の言葉を勉強したいと思っていたこともあり、日本語の勉強を始めました。大学2年から3年に上がる夏休みに日本へ行き、函館にホームステイして、東京にも遊びに行ったりしていました。その後、2008年に大学を卒業したものの、当時リーマンショックの影響もあり、なかなか就職先が見つからず、日本語の勉強や日本での経験がとても印象深かったこともあり、日本で就職することを決意しました。


日本に来て、社会人1年目は英会話学校に就職。約1年間働きましたが、自分が勉強してきた日本語をなかなか使う機会もなく、やりたいこととのギャップを感じて転職活動を始めました。そのタイミングでアメリカに帰国するか迷いましたが、日本で自分の誇りに思えることがなにもできていないと思い、日本にとどまってチャレンジを続けようと、いろんな求人に応募しました。その中で、いまの人生の土台になっている、イベント興行会社「キョードー東京」での仕事と出合いました。真面目な自分が音楽やエンタメ業界で働くとはまったく想像していなかったのですが、なぜかキョードー東京の求人を見た時に、ピンときて面接を受けました。実際に面接で社員の方たちと話しをしてみると自分とフィットする感覚もあり、会長秘書としてすぐに入社しました。仕事内容は、海外アーティストの来日ツアーのアテンドやコーディネート、チケット売上報告、チラシ作成や、レーベルと取材を組んだりといったもので、初めての業界ながらすぐにやりがいを感じ、仕事に熱中できました。


ライブ・エンタメの最前線で働いたこの時の経験によって、いままでの真面目すぎた自分から一皮剥けることができたと思っていて、あの時の経験があったからこそ現在の私がいると言っても過言ではないです。アーティストの方たちやイベントをつくる人たちと仕事をする中で、「よい大学に入ったから成功する!」という固定概念が崩されて、「自分が自分らしくいて成功できるんだ!自由にやっていいんだ!」と思えたんです。また、音楽を通じて生まれる感動を幾度となく目の当たりにし、自分次第で道を開拓できるエンタメ業界が大好きになっていました。そうした自分の中での大きな変化が生まれたキョードー東京での仕事は大好きでしたが、2年半ほど仕事をしていく中で自分でも企画ができるようになりたいと考え、フリーランスに転身しました。


フリーランスとして、海外アーティストの通訳やコンテンツの翻訳を中心に1~2年程活動していましたが、前職からお仕事をご一緒していたソニーミュージックから声をかけていただいたことをきっかけに、いまのスキルを、よりビジネス視点で活かせるようになりたい考え、ソニーミュージックでのキャリアをスタートしました。キョードー東京の頃に培ったスキルをビジネスレベルにブラッシュアップし、レーベルビジネス、出版ビジネス、プロデュースビジネスなどにチャレンジしました。数年後には新規事業にも携われるようになり、自身が責任者となるプロジェクトを担当するまでに至りました。そうした中で自然と経営者レベルの事業に興味をもつようになり、起業を決断しました。


起業するにあたって、自分を引き出してくれた業界やそこで活躍しているアーティスト、イベント主催者の力になれる事業をしたいと考えていくうちに、いままで働いていた中で不思議だと感じていた「アーティストが自分のレーベルを持っていても、自分でチケットを売ることができないこと」を解決したいと思ったのが、ZAIKOを立ち上げたきっかけでした。

すぐにアイディアを形にしようと動き始めましたがなにもないところからのスタートで苦労もありましたし、経営者としてもチャレンジの連続です。リーダーシップをとらなくてはいけない、マネジメントも営業もやらなくてはならない、そんなさまざまなプレッシャーでさえ、モチベーションになるくらい、業界のためになるサービスをつくり世の中に出していくチャレンジはとても楽しいです。また、社員が成長していく姿を見ることに心から喜びとやりがいを感じています。


日本に来て今年で13年が経ちました。大学を卒業して日本に来た時は正直、こんなに長期に渡って日本にいるとは考えてもいなかったですし、自分が会社の経営者となって、まさかエンタメに携わる仕事をするとも思っていなかったです。いまの日本と世界のエンタメ事情、トレンド、そのプロフェショナルな経験や、アメリカ出身の女性として見えることなど、日本で仕事をしている私ならではの体験を通したコラムをお届けして行きたいと思います。

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。

1986年、アメリカ生まれ。2008年にシカゴ大学卒業後に来日し、キョードー東京に入社。2013年よりソニー・ミュージックにて新規事業や渉外を担当。19年1月に仲間と「ZAIKO」を設立し、取締役COOに就任。同年からは内閣府知的財産戦略本部の構想委員会委員を務める。