
家計が苦しい状態の人で、少なからずあるのが保険に入り過ぎな「保険貧乏」だ。保険に毎月5~6万円支払っていたり、すごい人では月30万円と言う強者もいる。そもそも保険は、いつ起こるかわからない「リスク」を経済的にカバーすることに備えるものだ。頻度は少ないけれど、一度起きてしまうと大きなダメージが生じると考えられる場合に必要になる。たとえば火災で家が燃えてしまうのは、人生の中で何度も経験することではないが、一度でも起きてしまうと数千万円レベルの損害が生じる。このようなリスクには、火災保険をかけ備えておく必要がある。
昔、勤めていた会社の先輩が結婚した時にこんなことを言っていた。「俺になにかあった時に奥さんが心配だから、死亡保障6,000万円の保険に入ったんだよね」当時は、奥様への愛情アピールかと思いスルーしてしまったが、ファイナンシャルプランナーとしては絶対にやめさせたい保険だ。生命保険は、亡くなったら経済的に困る人がいる場合に入るものだ。先輩の奥様は、同じ会社の同僚だったので、先輩が亡くなっても経済的には困らない。そして子どももいない(現在もいない)ので、生命保険は必要ないのだ。
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死亡保障額を見積もる2つのポイント

そもそも保険会社は「これさえ入っておけば安心ですよ」というセット商品を勧めることが多い。セット商品には、不要な保障がたくさんついている。死亡保障は、掛け捨ての定期保険で必要な期間だけ入るのが基本だ。死亡保障額を見積もるポイントは、次の2つだ。
1)既にもっている保障を考慮する
2)亡くなった後の生活をイメージする
たとえば、住宅ローンを組んでいれば団体信用生命保険で、その後のローンは必要なくなる。さらに、遺族基礎年金や遺族厚生年金も支給される。例えば36歳で平均月収が30万円の会社員で子どもが2人の場合、子どもが18歳になるまでは、約162万円支給される。月額13万5,000円程度だ。養育費分としては、十分だから大学費用として2人で1,000万円、妻の老後資金分で1,000万円と見積るとしたら2,000万円の保障で十分なのだ。そして子どもが社会人になれば死亡保障は、必要ない。保険のかけ方を間違えると生涯で1,000万円もの差がでてしまうのだ。
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保険で貧乏になる理由その1
→貯蓄性のある保険は、マイナスからの資産運用

解約時にお金が戻る、貯蓄性のある終身保険や個人年金保険は特に不要だ。終身保険や個人年金保険で貧乏になってしまう3つの理由を説明しよう。
保険で貧乏になるひとつ目の理由は、「貯蓄性のある保険は、マイナスからの資産運用」だから。お金を貯めるという点については、非常に効率が悪い。マイナスからの資産運用とは、どういう意味なのかご存じだろうか。積立定期など、毎月一定額貯める預金の場合、1年後に解約したとしても積立したお金が全額戻ってくる。ところが貯蓄性のある保険を1年後解約したら、マイナスになってしまう。どうして、この点を疑わずに保険に加入してしまうのだろう。
1年後に解約するとマイナスになってしまうのは、保障部分の比率が高いからだ。だから仕方がないと考える向きもあるだろう。だが、貯蓄部分であっても、販売した営業担当者や代理店に支払われる経費を差し引いてから積立金にまわるのだから、マイナスからの資産運用になってしまうのだ。それでも以前は、返戻率(へんれいりつ)が高い時代もあった。ところが2016年にマイナス金利が導入されてから、貯蓄性のある保険の返戻率は下がり続けている。
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保険で貧乏になる理由その2
→返戻率は意外に低い。普通に運用したほうがお金は増える

2つめの理由は「返戻率(へんれいりつ)に騙されてしまう」ということだ。「返戻率」とは、支払った保険料に対して、戻ってくるお金がどれくらいの割合になるかを示すものだ。保険で貯蓄が有利かどうかを判断するには、返戻率と利率、利回りについて理解する必要がある。
まず、「利率」は、額面金額に対して毎年受け取る利子の割合のことを指す。通常年率で表示される。たとえば100万円銀行に預けて、1年後に3万円の利息を受け取れるのならば、3万円÷100万円×100なので3%の利率となる。
一方「利回り」は、一定期間の投資元本に利子も含めた年単位の収益の割合だ。1年単位の割合である「年平均利回り」で表示するのが一般的。たとえば、額面金額100万円、利率3%の債券を95万円で購入して5年間保有した場合3万円×5年分=15万円と額面金額100万円−投資銀額9万円=5万円を足すと5年間の収益は20万円となる。年間収益に換算すると20万円÷5年で4万円だ。そして利回りは、年間収益4万円÷投資額95万円×100なので4.21%となる。
そして「返戻率」は前述したように、支払った保険料に対して戻ってくるお金がどれくらいの割合になるかを示す。だが返戻率には時間軸がない。だから、満期までの返戻率を1年の利率や利回りに換算して考える必要がある。たとえば、108%の返戻率の保険に一括100万円、10年間保険に加入した場合、年利は0.8%ととなる。
最近の個人年金保険では、返戻率の高いものでも105%程度だ。35歳で加入し65歳まで毎月1000円払込みして105%の返戻率だったら、保険を活用するより自分で運用した方がはるかにお金を増やせる。たった1%の利回りで運用しても17年で上回ってしまうのだ。30年間1000円を払い込み返戻率が105%だったら受取額は、37万8,000円だ。元本は、36万円だから30年間で増えたのは、1万8000円だ。同じく毎月1000円を17年間年利1%で運用すると1万8265円増える。
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保険で貧乏になる理由その3
→生命保険控除の金額は微々たるもの

3つ目の理由は、生命保険控除の金額は微々たるものであるから。生命保険控除が受けられるので節税になるというセールストークがよくあるが、まずは個人年金保険で戻ってくる税金を考えてみよう。個人年金保険の控除の上限は、年間8万円以上で4万円の控除だ。毎月1万円の個人年金保険に加入して年間12万円かけていても8万円が上限なので控除額は4万円となる。実際の還付金を税率20%の方で計算をすると個人年金保険は、8,000円の還付だ。
同じ老後資金をつくると考えるのなら、iDeCoと比較してみよう。iDeCoは、全額所得控除にだから毎月1万円の掛金とすると12万円すべてが所得控除になる。実際の還付金は、税率20%の方の場合2万4,000円だ。iDeCoの節税効果は、年金保険に比べとても高い。生命保険控除は、例えてみるとクレジットカードのポイント還元程度と考えてもいいだろう。
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保険を含め金融商品が、自分に合っているかどうかを判断する場合は、次の3つについて考えてみると良い。
・安全性:元本や利子支払いが確実かどうか
・流動性:換金しやすいかどうか
・収益性:期待する利益を得られかどうか
保険の場合は、流動性がすこぶる悪いのだ。満期前に解約すると払い込んだお金よりも少ない金額しか戻ってこない。ここをよく考えて見直して欲しい。ただし、上記3つの性質をすべて保有する金融商品はない。安全性が高いものは、収益性は低い。保険の場合は、流動性が悪い代わりに預貯金よりは収益性が少し高い程度だ。ただし安全とは言えないケースもある。特に最近加入者が多くなっている外貨建ての保険について考えてみましょう。円建ての保険に対して、外貨建ての保険は、利率は高いが、為替が動けばその利率なんて簡単に消し飛んでしまうからだ。
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300万円で外貨建ての保険に入った場合を単純に為替だけで計算してみよう。ドル円が110円で300万円分ドルに換算すると、約27,273ドルだ。もし満期の10年後ドル円が90円になっていたら、27,273ドル×90円だから262万円になってしまう。このリスクは高い。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/