あの漫画家が東京を描いたら…?『漫画「もしも東京」展』が開催中

  • 写真・文:はろるど

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出水ぽすかが描いた『深夜のまっぴるま』。東京都出身の出水にとって当たり前の住まいであった東京。その思い出やほんの少しの寂しさを絵に表現している。

多くの人々が行き交い、日々変貌を遂げながら、いつも刺激にみちた都市・東京。銀座、新宿、上野、六本木など、場所によって表情を大きく変え、何万通りものイメージが浮かぶカオスのような街だ。その東京を日本を代表する20名の漫画家が思い思いに表現した『漫画「もしも東京」展』が、東京都現代美術館にて開かれている。

「読む東京・歩く東京」をコンセプトに掲げた会場は、美術館内の3カ所に分かれている。まず地下2階の講堂では『魔人探偵脳噛ネウロ』でデビューを果たし、『暗殺教室』で高い評価を得た松井優征や代表作『ソラニン』や『おやすみプンプン』で知られる浅野いにお、それに人気漫画『約束のネバーランド』の作画を担う出水ぽすかといった18名の漫画家が、それぞれ漫画のコマに入ったような小部屋にて描き下ろしの作品を公開している。中には部屋を突き出した松井優征の『都庁ロボ』や、お茶の水の聖橋のモチーフを大きな屏風に描いた黒田硫黄の『天狗跳梁聖橋下』など、漫画のメディアを超えたようなダイナミックな作品があって楽しい。順路はなく、街の路地を巡り歩くような会場構成も魅力だ。

その講堂に続くのが、屋外に位置する水と石のプロムナードだ。ここでは『映像研には手を出すな!』でヒットを続ける大童澄瞳が、6つの絵の描かれた透明なアクリル板を水上に並べた『East East』を展示している。いずれも東京の環境や状態を空や動物、人間の心の目線から捉え、カブや温室、さらに神秘的な人の姿に置き換えて描いて、複数のコマが三次元的に展開したインスタレーションのような世界を築いている。かつて見たことのないエッジの効いた漫画の展示に好奇心をくすぐられる。

ラストの中庭に展示された石塚真一の『Tokyo Sound』も見過ごせない。1コマながらも巨大な壁画のような絵には、ジャズを題材した『BLUE GIANT』の主人公がサックスを高らかに演奏する姿を描いている。注目したいのは楽器の部分だ。そこには東京スカイツリーや新国立競技場、それにダルマといった東京や日本を連想させるモチーフが細かに散りばめられている。銀座の和光や渋谷の109などの合間を鉄道や道路が縫うように走っていて、東京名所コラージュと言って良い。

それぞれの漫画家の描いた東京は、上京時のエピソードや好きな場所を舞台にしていたり、全くのパラレルワールドを設定していたりするが、中にはコロナ禍における新たな生活様式を取り込んだ作品も見られる。会期は夏の約1ヶ月限定の9月5日まで。入場無料の事前予約制で撮影もOKだ。過去と現在、そして未来が交錯し、虚実入り混じったイマジネーションにあふれる東京の光景を、『漫画「もしも東京」展』にて目撃したい。

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浅野いにお『TP』。近未来の東京を舞台にしたSF的な味わいもある恋愛物語が展開する。ラストも劇的。

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黒田硫黄『天狗跳梁聖橋下』。予備校時代から親しみ、東京で一番美しい景観とする聖橋の夜明けに天狗が闊歩する様子を描いている。屏風仕立てであるのが面白い。

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「水と石のプロムナード」の水盤の上に展示された大童澄瞳の『East East』。6つのアクリル板にはそれぞれ「横角」、「カブ」、「温室」、「門」、「新芽」、「縦角」と名付けられていて、「温室」は抽象化した東京文明を表しているという。コンセプチャルな作品だ。

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石塚真一『Tokyo Sound』。順路の最後にあたる中庭に展示されている。楽器に細かくコラージュされた東京の名所を探したい。

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『漫画「もしも東京」展』

開催期間:2021年8月4日(水)〜9月5日(日)
開催場所:東京都現代美術館 地下2階講堂、中庭、水と石のプロムナード
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5245-4111(代表) 
開館時間:10時~18時 
※入場は閉館の30分前まで。
休館日:8月16日・23日 
入場料:無料、講堂内のみ事前予約制
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://mangamoshimotokyo.jp