映画のマジックによって、魅力を増した傑作ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』

  • 文:細谷美香
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撮影は実際にワシントン・ハイツで行われた。故郷のドミニカでバーを開く夢をもつ主人公を演じるのは、『アリー/スター誕生』などに出演してきたニューヨーク育ちのプエルトルコ系俳優、アンソニー・ラモス。(C)2021 Warner Bros.Entertainment Inc.All Right Reserved

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マンハッタン北部に位置する、移民が多く住む一角ワシントン・ハイツ。この街を舞台にした『イン・ザ・ハイツ』は、リン=マニュエル・ミランダが作曲・作詞・主演を務め、トニー賞4冠に輝いたブロードウェイミュージカルだ。この傑作を『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ監督が映画化。アメリカ建国を描いたミュージカル『ハミルトン』でも、脚本・作曲・作詞に加え、主演も努めて大成功を収めたミランダを、チュウは『イン・ザ・ハイツ』の映画化に際して製作側に招き、最強のタッグで本作を完成させた。

チュウは台湾系、ミランダはプエルトリコ系とルーツは違うが、移民の子どもという共通点をもつ。監督はミランダと初めて会った時、「移民家族の子どもたちの夢や希望は、スクリーンに映す価値がある」という思いを分かち合った。

食料雑貨店を営むドミニカ系移民の青年を軸に描かれるのは、同じコミュニティで暮らす人々のひたむきな物語だ。夢と現実の狭間でもがき、恋に悩み、貧困や差別の問題に直面して立ちすくんでしまう日もある。それでも立ち上がろうとする人々の日常を彩り、鼓舞するのはヒップホップやサルサの情熱的なリズム! 街角からラテンの音楽が鳴り始めた途端、ストリートはドラマティックな人生を描き出すステージになるのだ。

チュウは、歌とダンスをスクリーンで堪能する喜びを存分に感じさせる500人以上の群舞をはじめ、映画的なマジックを駆使。夏の暑さを感じるエネルギッシュなミュージカル映画をつくり上げた。「みなが自力で歌い、踊る姿に胸が熱くなりました」と代役に頼らなかったキャストをたたえている。

「コミュニティによって苦悩のかたちは違うかもしれません。でも、解決方法はいつも同じなんです」と語るチュウ。撮影中、お互いを理解し、助け合えば、前進できることを確信したという。この映画で描かれたコミュニティの連帯と多様性には、未来を生きる者へのエールが込められている。

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(C)2021 Warner Bros.Entertainment Inc.All Right Reserved

『イン・ザ・ハイツ』

監督/ジョン・M・チュウ
出演/アンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、レスリー・グレースほか
2021年 アメリカ映画 2時間23分
7月30日より新宿ピカデリーほかにて公開。
https://wwws.warnerbros.co.jp/intheheights-movie.jp/

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