広島・長崎の原爆投下から76年。惨禍の記憶を共有し、平和を希求するメッセージを、ポスターを通して国内外に伝えるアクション「ヒロシマ・アピールズ」が、今年も公開された。
1983年、亀倉雄策の「燃え落ちる蝶」を第1回作品としてスタートした「ヒロシマ・アピールズ」。毎年、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)会員から1名が制作者として指名されるが、歴代には粟津潔、福田繁雄、田中一光といったレジェンドから、石岡瑛子、葛西薫、井上嗣也に原研哉など、錚々たるメンバーが名を連ねる。
今年、制作者として選ばれたのは大貫卓也。としまえん「プール冷えてます」や日清カップヌードル「hungry?」、資生堂「TSUBAKI」など、数多くのヒット広告を世に送り出したアート・ディレクターである。「原子爆弾の脅威を今の若者へ歴史としてではなく、ライブ感をもって伝えること」を意識したという大貫。ポスターのモチーフは、ガラスのドームに閉じ込められた平和の象徴、白い鳩。しかし、観光地みやげによくあるスノードームと違い、舞い上がり降り注ぐのは、きらきらした白い雪ではなく、不吉な黒い粉だ。焼夷弾の煤(すす)と煙、爆撃による瓦礫、そして、8月の黒い雨……。
ポスターには仕掛けがあり、スマートフォンで専用アプリ「aug!」をダウンロードしてかざすと、画面上でグラフィックが動き出す。黒い粉がドームにみるみる充満し、鳩を覆い尽くしていくというAR(拡張現実)ポスターなのだ。「原子爆弾にリアリティーをもたなくなってしまった世代の若者へ、一瞬でも、考え、想像させる時間を持ってもらうための表現」だと、大貫は語っている。
76年が経ったいまもなお、閉じ込められた平和の鳩は苦しみに耐え、飛び立てないでいる。スマホ越しの拡張現実が、ヒロシマの静かな叫びを伝えてくれる。
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【動画】アプリでかざすとグラフィックが動き出す
