「包み」に込められた日本人の美意識や心。『包む-日本の伝統パッケージ』展が開催中

  • 文:はろるど

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『卵つと』(山形県)を写したチラシ表紙。卵を割れないように藁で包んで持ち運んだ入れ物で、「用の美」を思わせるように洗練されたデザインが美しい。

戦前からアートディレクターとして活動し、グラフ雑誌や宣伝広告などを幅広く手掛けた岡秀行(1905〜1995)。日本の人々の「美意識」や「心」を見出すべく、自然の伝統的な素材を用いたパッケージを収集・研究しては、書籍の出版や展覧会などで世に広く知らせようと努めてきた。

その岡のコレクションしたパッケージを一堂に公開するのが、目黒区美術館にて開催中の『包む-日本の伝統パッケージ』だ。会場では木、竹、笹、紙や布などによってできた食品や菓子、酒類の包装や容器を400点も展示している。中には『奈良漬』や『ますのすし』、『祝儀袋』など実際に目にしたことのあるパッケージも少なくない。また単に木と言っても皮や葉を使っていたり、竹も竹筒や竹皮、それに竹かごを用いていたりしていて多種多様だ。「何世代にもわたる無名の人々が磨きあげてきた美意識がある」とは岡の言葉だが、そこには確かに熟練の職人たちの手わざが残されているように感じられる。

岡のコレクションは1970年代から80年代にかけて海外にて紹介され、その後、目黒区美術館での『5つの卵はいかにして包まれたかー日本の伝統パッケージ展』(1988年)にて日本の公立美術館としては初めて公開された。そして終了後、岡よりパッケージ群を譲り受けた同館では『〈包む〉コレクション』と名付けて大切に保管している。さらに2011年には所蔵作品展として改めて紹介。当時も一部の美術ファンなどから注目を集めて話題となった。

以来10年。今回は3度目となる展覧会だ。製造されてから30年以上経ったパッケージには、自然素材ゆえの色あせや割れといった経年劣化も見られる。しかし『卵つと』や『釣瓶鮓』をはじめとする造形美と機能美を兼ね備えたパッケージは、いずれも格調高く凛としていて、見ていると作り手への敬意の念すらわいてくるほどだ。何かと簡易包装ばかりが訴えられる今だからこそ、改めて生活の知恵が詰まった「包み」が持つ価値や人々の心に与える意味を考えたい。

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『釣瓶鮓』奈良県/釣瓶鮓弥助 木で作られた曲げ物桶に鮎の熟れ酢を詰めたもの。約20年前までは実際に使われていた。実に千余年の歴史を有するというから驚きだ。 撮影:酒井道一(岡秀行著『包』毎日新聞社、1972年 所収)
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『ささらあめ』 宮城県/熊谷屋 ひご竹の先に小さなさらしあめをつけて竹筒に挿している。まるで花束を見るように華やかだが、残念ながら今はもう作られていない。
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『包む-日本の伝統パッケージ』会場風景。パッケージの多くは露出にて展示されている。会場内に設けられた白線枠の内側からであれば、展示室内の撮影も可能だ。photo: Harold

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第4室の岡秀行コーナー。岡秀行の足跡と日本の社会とデザインの動きを示した年譜や、岡の著作物などの資料を展示している。また同コーナーで公開中の日本の民俗文化を記録した映像、『包 日本の伝統包装』(35分)も見逃せない。photo: Harold

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『包む-日本の伝統パッケージ』
開催期間:2021年7月13日(火)~9月5日(日)
開催場所:目黒区美術館
東京都目黒区目黒2-4-36
TEL:03-3714-1201
開館時間:10時~18時 ※入館は17時半まで
休館日:月。但し8月9日は開館し、8月10日は休館。
入場料:一般¥800(税込)
https://mmat.jp