佐久間宣行×橋本吉史、名物プロデューサーが見据えるメディアの未来

  • 写真:土屋崇治
  • 文:佐野慎悟
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テレビとラジオという異なるメディアを主戦場とするふたりのプロデューサー。 既存メディアの枠組みや自身のフィールドを超えて活動する中で見えてきた、 ボーダーレスな時代におけるコンテンツ産業のあり方について語り合った。

左:佐久間宣行●1975年、福島県生まれ。テレビプロデューサー。早稲田大学を卒業後、99年にテレビ東京入社。プロデューサーとして「ゴッドタン」「ウレロ☆」シリーズ、「あちこちオードリー」などの番組を手がける。2021年4月に独立。 右:橋本吉史●1979年、富山県生まれ。ラジオプロデューサー。一橋大学卒業後、2004年に現TBSラジオに入社。「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」「ジェーン・スー 生活は踊る」を立ち上げるなど、人気番組を多数手がける。

近年、大きな盛り上がりを見せている音声コンテンツ。その背景として、スマホの普及や配信環境の整備、一般ユーザーの参入など要因は多々挙げられるが、既存のメディアの枠を超えた「コンテンツの多様化」が進んだ結果でもある。音声メディアやコンテンツ産業の現在を知る上で、テレビとラジオ、各界の第一線で活躍しながら、エンターテインメントの枠組みを広げてきたふたりのプロデューサーに話を訊いた。この4月にテレビ東京を退社して独立したばかりの佐久間宣行さんと、TBSラジオの橋本吉史さんだ。

佐久間さんは「ゴッドタン」などの人気番組を生み出し、個人としても「オールナイトニッポン0」のラジオパーソナリティや「ジャパンポッドキャストアワード」の審査員を務めるなど、ジャンルを超えて活躍している。一方、橋本さんは「アフター6ジャンクション」や「ジェーン・スー 生活は踊る」などの人気番組を立ち上げた他、ポッドキャスト向けの音声ドラマの制作も担当している。


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これからの時代に求められる、 新たなプロデューサー像

収益化に向けた引き出しがないと、面白い番組でも続けていくのは難しい

橋本 いま、佐久間さんがプロデューサーを務めるドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」が放送されていますね。僕が立ち上げた番組「ジェーン・スー 相談は踊る」を思わせるラジオの放送シーンが毎回出てきますが、キャストやスタッフの布陣が、スーさんのラジオのことをよく理解している人たちで固められている感じがして、佐久間さんのラジオに対するリスペクトを強く感じました。

佐久間 そこはいちばん気を使ったというか、僕自身も長年のリスナーだから、山戸結希監督とも相談しながらラジオ好きも納得できる内容にしたかったんですよね。

橋本 テレビとラジオ、現場によっても違いはあると思いますが、佐久間さんにとってプロデューサーの仕事とはなんでしょうか?

佐久間 プロデューサーってひと口に言っても、その人次第で仕事の範囲が全然違いますよね。僕みたいに企画、予算管理、スタッフィングに加え、総合演出まで責任をもつタイプの人間もいれば、コンプライアンスだけチェックする人もいます。特にテレビ東京の規模だと、バジェットの管理が直接番組の演出内容に関わるので、自分がまるっとやったほうが効率がいい。あと「ゴッドタン」みたいな番組は、コンプラ的にNGになりそうな企画ばかりなので(笑)、自分が責任を負ったほうが、面白くて過激なことをやれるんです。

橋本 ラジオもどこまでやるかは個人次第で、線引きはないですね。ただTBSラジオでは、スポンサーの獲得もプロデューサーの仕事のひとつとされていて、予算に加え、マネタイズも管理する必要があります。いかに番組を存続させるか、続けていくかを考えるのも、プロデューサーの仕事ですね。

佐久間 そうですよね。僕が多くやっているテレビの深夜番組も、ゴールデンに上がれる番組をつくるか、大物MCの息抜きか、マネタイズできる仕組みをつくるか、そのどれかを叶えなければ、半年で終わってしまいます。「ゴッドタン」は上記ふたつに該当しない番組なので、じゃあ収益化しなきゃってことで、最初はDVD、次はスポンサー、そして映画、ライブイベントといろいろやりながら、なんとか15年やってきました。常に収益化に向けた引き出し、軸になるコンテンツを2〜3手札に持っておかないと、いくら面白い番組でも続けていくのは難しい。

橋本 『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』はバラエティの枠を越えて、映画とは?芝居とは?と問いかけてくるスゴい作品でしたが、お笑い以外のジャンルを組み合わせて企画する佐久間さんの姿勢にはすごく共感します。僕自身は、ジャンルやメディアを越境しながら、いかにラジオの外の世界から気にされる番組をつくれるかに注力しています。

音声だからこそできる、世界基準の番組づくり

ラジオの枠組みからはみ出して、音声コンテンツの可能性を広げたい

佐久間 今回の「ジャパンポッドキャストアワード」で審査員をやらせていただきましたが、「令和版夜のミステリー」は、音のクオリティやつくり込みがこれまでの日本のラジオドラマとは根本から違いますよね。ヘッドホンやイヤホンで聴くのが前提となった時代のコンテンツだと思います。

橋本 ラジオドラマの発想を一度まっさらにして、改めて音だけで極上のドラマ体験、つまり映画みたいな体験をできるか試してみたかったんです。そこで、劇場の環境を前提に音をつくり込む映画のチームと組んで制作したいと思いました。ポッドキャストが盛り上がっている海外では、音声ドラマがすごく勢いがあります。その波が日本に来た時に、国内でも高いクオリティで展開できるように、態勢をつくっておきたいと思って。周囲からは『いまさら音声ドラマなんて』という声も上がっていたので、アワードで佐久間さんから、これが新しい基準となる作品だっていうコメントをいただけて、努力が報われた思いでした。

佐久間 僕は海外のポッドキャストをよく聴くんですが、日本にもこういう作品がもっとたくさん出てきたらいいな〜って、単純に思いました。脚本もかなり大事な要素なので、これからいろんな脚本家が参加してくると、もっと面白くなると思います。さらには、映像を撮る必要がないので、日本の映画やドラマの予算規模では到底映像化できなかった原作も、音だけなら制作できるわけですし。

橋本 そうですよね。CGやセットに莫大な予算がかかるSFものとか、「映像化不可能といわれたあの作品がついに!」というのも音声だけであれば逆に低予算でできるかもしれません。

佐久間 ポッドキャストはアーカイブされて、いつでも聴けるっていう部分も強みですよね。それは「コテンラジオ」を聴いて思ったことなんですが、あれだけしゃべりがうまい上に、リサーチ力も半端ない。そういう完成度の高い番組は、作品としてアーカイブされてより多くの人に聴かれるべきですよね。サブスクみたいなビジネスモデルも展開しやすいですし。

橋本 ポッドキャストがYouTube並みに盛り上がるには、まだ圧倒的にチャンネルの数が足りていません。もっと多くの人が参入して競い合う自由なプラットフォームになっていけば、全体のレベルは上がっていくはずです。

佐久間 テレビもラジオも、既存メディアの収益構造が限界を迎えていることは間違いない。マネタイズの仕組みを多角的に考える必要がありますよね。あとは、高齢化社会に向けた番組だけでいいのか、日本の市場だけをターゲットにしていればいいのか、それを本気で考えなければいけない時期になりました。韓国のエンタメ業界は、グローバルな収益構造を確保することで、より多くのお金を制作にかけることができ、その結果クオリティがさらに上がっていくというポジティブなサイクルを構築しています。日本のコンテンツ産業もそういう部分にしっかり向き合わないと、どのメディアも生き残っていけない時代になっていると思います。

〜Nobuyuki Sakuma’s works〜

生きるとか死ぬとか父親とか
ラジオパーソナリティ、コラムニスト、作詞家と、多彩な顔をもつジェーン・スーの自叙伝が原作のテレビドラマ。主演は吉田羊。テレビ東京系列にて毎週金曜深夜0時12分放送。

佐久間宣行のオールナイトニッポン0
2019年にスタート。現役のテレビ局社員がレギュラーを担当するのは、オールナイトニッポン史上初。ニッポン放送にて毎週水曜27時〜28時30分放送。ポッドキャストでも配信中。


〜Yoshifumi Hashimoto’s works〜

アフター6ジャンクション 
ライムスター・宇多丸がMCを務めるカルチャー番組。TBSラジオにて毎週月曜〜金曜18時〜21時放送。スポティファイのポッドキャストで「別冊アフター6ジャンクション」も配信中。

令和版 夜のミステリー
2020年12月に配信がスタートした、「オーディオムービー」のポッドキャスト向け音声ドラマ。TBSラジオで1970年代に放送されていた伝説的なホラー番組をアップデートした。


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※この記事はPen 2021年7月号「コーヒーとグリーン、ときどきポッドキャスト」特集より再編集した記事です。