1940年代のルーツを忠実に再現した、ブライトリング「プレミエ ヘリテージ コレクション」

  • 文:笠木恵司
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ブライトリングの新作「プレミエ ヘリテージ コレクション」。1943年に誕生したオリジナルのデザインを忠実に再現。「クロノグラフ」(左)、「デュオグラフ」(スプリットセコンド、中央)、「ダトラ」(トリプルカレンダー+ムーンフェイズ+クロノグラフ)の3モデル各2種類のバリエーションで合計6タイプ。すべてCOSC認定クロノメーターで約70時間(約3日間)のロングパワーリザーブ。100m防水。

ブライトリングは質実剛健な高機能パイロットウォッチ「クロノマット」をフラッグシップとする硬派ブランドとして知られているが、そのイメージを覆す新コレクション「プレミエ」を2018年に発表。さらに2021年に追加されたのが、このモデルのルーツを忠実に再現した「プレミエ ヘリテージ」だ。優雅で洗練された知的なスタイルが魅力的な新作だが、その背後には、歴史に埋もれた知られざる物語と、それを発掘した2人の男がいた。

「プレミエ」は第2次世界大戦が最も激化した1943年に誕生した。混沌とした不安が支配する暗い世相はパンデミックの現代も似ているが、だからこそブライトリング創業者の孫で3代目のウィリー・ブライトリングは光と希望を感じさせる時計を構想したという。何もかもが軍事用に供され、死の恐怖すらつきまとった時代に、これほど優雅でエレガントなスタイルを生み出したことに感心させられる。

ただし、ブライトリングは衆知のようにパイロットウォッチやダイバーズなど高機能なスポーツウォッチを専門分野としており、このモデルと物語は同社の歴史の中に埋もれていた。それを発掘したのが、2017年から経営に参画したジョージ・カーンCEOと、世界有数のヴィンテージウォッチコレクターであるフレッド・マンデルバウム氏だ。カーンCEOは就任直後にSNSを通して彼を知り、オーストリアの自宅まで足を運んできたという。

フレッド・マンデルバウム●オーストリア在住のビンテージウォッチコレクター。電子機器業界のコンピュータ部の設計・製造分野でキャリアをスタート。電子時計よりも永い命を持つ機械式時計の魅力に惹きつけられ、約40年にわたり時計を収集し続ける。多岐にわたるヴィンテージブライトリングを所有しているが、その本数は明かしていない。現在はブライトリングのコンサルティングも手掛ける。

「話を始めて30分もたたないうちに、カーンCEOは1943年に製作された『プレミエ』を手に取りながら『我々はここに立ち返る必要がある』と呟きました。自分たちのルーツと歴史を深く理解し、ブランドを改めて明確に定義する必要があるということです。それ以来、私はアドバイザーとしてデザインチームに協力してきましたが、2018年発表の『プレミエ』は、ブライトリングが長きにわたって有していた根源的要素を取り戻した初めての時計といえます。歴史と現代性がみごとに融合しており、カーンCEOが目指した『モダンレトロ』に仕上がっていました。それだけにオリジナルのデザイン要素がすべて継承されているというわけではなく、むしろこれからブランドのオリジナリティを多彩に展開していくための、まさに“最初”(仏語Premierの意味)の一歩を踏み出したモデルであると理解できたのです」(フレッド・マンデルバウム氏、以下同)

ピスタチオグリーンのダイヤルが印象的な「プレミエB09クロノグラフ40」。手巻き、ステンレススチール、ケース径40㎜。秒と30分積算計の2レジスター・クロノグラフ。ストラップはアリゲーター。¥946,000(税込)

この「プレミエ」は、ブライトリングのファンや時計関係者に強烈なインパクトをもたらした。クロノグラフには自社製のハイスペック・ムーブメント「キャリバー01」を搭載。機能や精度は継承されているものの、あたかも飛行服を脱いで洒落たスーツやカジュアルファッションに着替えたかのような印象を与えたからだ。当初は斬新に感じた人もいたかもしれないが、ヴィンテージ特有の温かみを感じさせる魅力はすぐに理解され、次第に人気を高めていった。そして2021年、満を持したように新しく追加されたのが『プレミエ ヘリテージ』なのである。

「2018年の『プレミエ』はブライトリングの歴史の中でも重要な1960年代のデザイン要素を継承しており、1940年代のオリジナルを完全に復活させたわけではなかった。それを実現したのが『プレミエ ヘリテージ』なのです。ウィリー・ブライトリングは、大戦中の暗い世相に必要なのは『生きることの光と希望を感じさせるデザイン』だと確信していました。彼は希望、喜び、踊り出すような気持ち、誇り、トンネルの先に見える光などをイメージしており、それが当時のデザインに如実に反映されています。オリジナルの『プレミエ』はヴィンテージウォッチコレクターとして大好きな時計のひとつだったので、それが忠実に再現されたのはとても嬉しいですね」

クロノグラフはムーブメントも手巻きを採用

「プレミエ B09クロノグラフ40」のケースバック。ブライトリング自社開発製造の自動巻きクロノグラフ・ムーブメント「キャリバー01」をベースに開発された手巻き「キャリバーB09」を搭載。コラムホイール式で垂直クラッチ。針飛びの怖れがない。

新作の「プレミエ ヘリテージ コレクション」は、「クロノグラフ」、スプリットセコンドの「デュオグラフ」、トリプルカレンダー+ムーンフェイズとクロノグラフ機能を持つ「ダトラ」の3モデルがあり、それぞれ2種類のバリエーションが用意されている。いずれもオリジナルデザインを継承しているが、ムーブメントはすべてCOSC認定のマニュファクチュールクロノメーターで100m防水。約70時間のロングパワーリザーブなので実用性にも優れている。

中でも「プレミエB09クロノグラフ40(ケース径40㎜)」は1940年代と同じ手巻き式を採用したことが注目できる。自動巻きも便利だが、指でゼンマイを巻き上げるのは時計との密接な対話であり、楽しみになってくるはずだ。また、斬新なピスタチオグリーンのダイヤルも目を惹く。2本のクロノグラフ針を持ち、ラップタイムなど2つの経過時間を正確に計測できる「プレミエB15デュオグラフ42」も手巻きであり、18Kレッドゴールド製ケースにブラックダイヤルが艶っぽいコンビネーション。若く颯爽とした印象を与えるブルーダイヤルとステンレススチールの組み合わせも見逃せない。フルカレンダーの「プレミエB25ダトラ42」だけは自動巻きを搭載しており、こちらもカッパー(赤銅色)のダイヤルが印象的だ。

ブルーダイヤルが若々しく明るい印象を与える「プレミエB15 デュオグラフ 42」。クロノグラフ秒針を2本備えているので、ラップタイムなど2つの経過時間を測定できる。手巻き、ステンレススチール、ケース径42㎜。¥1,166,000(税込)

「遊び心に溢れていることも『プレミエ ヘリテージ コレクション』の特長であり、それが素晴らしく美しい個性的な色合いに表現されています。その一方で、機械式時計ならではの魅力を堪能できるスプリットセコンドやフルカレンダーという複雑機構をラインナップ。ただ眺めるだけでも、秒を刻む音を聴くだけでも心が躍りますよ。にもかかわらず100m防水ですから、人生のほとんどの場面で着用できます。実はデザインを固めていく段階でカラーリングも試行錯誤を繰り返しており、カーンCEOが『メンズのクロノグラフでいまだかつてなかったような新しい色で行こう』と決めたのがピスタチオグリーンでした。クラシカルなスタイルに斬新な薄緑色がコントラストしており、素敵なモデルだと思いますね」

月、日、曜日、ムーンフェイズを表示するクロノグラフ「プレミエB25ダトラ42」。赤銅色のカッパーダイヤルとステンレススチールの組み合わせ。¥1,408,000(税込)

パイロットウォッチとして高いシェアを誇る「クロノマット」などのスポーツウォッチに加えて、紳士にふさわしい気品と洗練されたエレガンスを備えた「プレミエ」という大胆な展開を成功させたブライトリングだが、これからどこを目指すのだろうか。

「ブライトリングは幅広い領域に深く根を張った大木にたとえられます。複数の領域がいつの間にか埋もれていましたが、それらすべてを見直し、根を張る各領域に内包された誇り高い精神を改めて伝え手渡していこうとしているのです。やるべきことはすべて戦略の中に組み込まれており、これから先も素晴らしいモデルが数多く登場するので、ワクワク感をもって期待してください」

問い合わせ先/ブライトリング・ジャパン TEL:0120-105-707