路面電車とアーケード商店街が、心を和ませる「三ノ輪」へ。

  • 写真:殿村誠士
  • 文:今村博幸 マップ制作:別府麻衣

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明治通り、昭和通り、日光街道が交わる三ノ輪は、古くから交通の要所だった。台東区の北部に位置し、北は荒川区南千住、南東部は吉原でも知られた日本堤、西部は台東区根岸に接する下町中の下町だ。商店やビル、寺院や住居などが混在する、江戸の風情を残す街でもある。中心にあるのが、荒川線の終点三ノ輪駅。線路に沿って開けているのがジョイフル三ノ輪、正式名称は三ノ輪銀座商店街で、1919(大正8)年の発祥である。

チンチン電車を眺め、年季の入ったアーケード商店街を行く。路面電車のある風景や、惣菜屋やパン屋、荒物屋などには、素朴だがどこか懐かしい表情がある。ふと気づくと、車輪が線路のつなぎ目を通る時の「ガタンゴトン」という音が聞こえる。都営荒川線(東京さくらトラム)の終点三ノ輪橋が近いので、音と音の間隔はいくらか長い。スピードを競ういまの列車とは別の世界観がここには存在する。

線路と平行してアーケードが続く道の両側に、惣菜屋を中心とした小さな店が連なる商店街が「ジョイフル三ノ輪」だ。歩いているのは、全年齢層の人たち。これは、いい街の条件のひとつと言ったのは、谷中に住むとある日本画家の言葉だ。

そんな商店街の中で、賑わっている店のひとつが「とりふじ」。焼き鳥やコロッケ、焼き魚まである、さながら惣菜の総合商社。店主の張替一弘さんは、みんなで助け合いながら、商店街を盛り上げたいと言う。

「年を重ねてくると余計に、助け合いの大切さを感じますね。余裕のある時には、少しでも商店街のために動きたいと思っています」

気取った人がいない。気さくな人が多いと店主たちが口を揃える。そして話好き、と惣菜と天ぷらの店「きく」の主人・覚前三枝子さんが笑う。

「お客さんも私たちも、よくしゃべります。店頭に椅子を置いて、長い時には小一時間も言いたいこと言って帰っていきますよ」

昔ながらの商店街らしい、店と客の関係もこの店では健在だ。商店街なのに、ガツガツ金儲けをしようという雰囲気は希薄。誰もがお気に入りの店でのんびりと買い物を楽しみ、おまけをもらったりお礼を言ったり、顔見知りの噂話や街の情報交換などをしながら、ひと時を過ごして帰路に就く。ひと言でも話せばすぐに仲よくなれるのも特徴だ。最初に登場願った張替さんがいみじくも言った。

「この辺の人は、飾り気はないけど気のいい人ばかりですよ」と。

路面電車とアーケード商店街が、心を和ませる。