フレンチワークを日本に運んだ店、「ETS.マテリオ」が復活! 新生スタートの軌跡を追った。

  • 構成・写真・文:高橋一史

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渋谷から新宿に舞台を移して12年ぶりに再始動した、新生「ETS.マテリオ」のショップディスプレイ。飾られているのは希少性のある黒色ヴィンテージのフレンチワークジャケット。

その店「ETS.マテリオ」は、ヨーロッパの街角のごとく小さなファッションの路面店が軒を連ねる、東京・渋谷のファイヤー通りにあった。通りのもっとも端の最も人通りの少ない場所。渋谷駅前の喧騒が苦手な人なら、原宿駅から国立代々木競技場横の坂を下っていけば心穏やかに辿り着けた。自分の時間に浸りたい大人がふらりと寄る隠れ家。オープンしたのが2003年、店が畳まれたのが08年というわずか5年間だけの営業だった。

趣味性の高い音楽や映画がヒットしないケースがあるのと同様に、こだわりの店も売上を維持できるほど客を集めないことがある。ETS.マテリオはおそらく時代に先駆けすぎていた。ファッション関係者の間で「フランスを旅したら『アナトミカ』に行け」と唱えられた、当時日本未上陸だったパリの銘店アナトミカに憧れつつ、フレンチワークに独自の解釈を与えた。カテゴライズしにくい個性派デザイナーズもミックスしたジャンルレスな品揃え。フランク リーダー、エンリー べグリン、サイ、カトー、ヴァレナ……。アメカジ、ストリート、モードといった既存のジャンルを好む人の目には異質に映ったかもしれない。歴史と未来の狭間に心躍る人(私のような)には、広い東京の中でも屈指の銘店だった。

そのETS.マテリオが今年の3月27日(土)に、舞台を新宿に移して復活を果たした。屋号をそのままに、フレンチワークやミリタリーを再解釈したオリジナルアイテムを打ち出す方向性に舵を切った。仕掛け人は旧ETS.マテリオのバイヤーを務めた経験をもつ金子恵治さん。15年に表参道でセレクトショップ「レショップ」を立ち上げて成功させた彼の手腕がどう発揮されるか興味はつきず、オープンに至るまでの現場に足を運んだ。


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渋谷ファイヤー通りにあった旧店舗。ETS.マテリオができる前は系列のレディスショップのスピック&スパンだった。写真は当時のショップスタッフによる記録。photo © baycrew's

ショップが改装されるまでの軌跡をほぼ同じ場所から撮影。上:改装前のエディフィス新宿店2階。中:金属や壁の半透明パネルを外して什器を入れた準備段階。下:完成した店内。

新生ETS.マテリオができる場所は、運営するベイクルーズグループの系列であるエディフィス新宿店の2階。伊勢丹新宿店もすぐ近くにあり、駅からアクセスしやすい立地である。実はこの2階の新しい利用方法が探られるなかで浮上したのが、EST.マテリオの復活案だった。改装前の内装は艷やかな金属と半透明のパネルに包まれた、ひんやりとしたシャープな空間。ビジネスマンもターゲットにしたエディフィスらしい都会的な様相である。だがヴィンテージをルーツにもつETS.マテリオとは相性がよくないようだ。急ピッチで進んだ復活プロセスと呼応するように、最小限の改装が行われることになった。

施工業者の作業が終わったあとの2階に行きまず驚いたのは、パネルも金属の内装も全廃されたこと。入り口から奥まですっきりと抜けた広がりのある箱に生まれ変わった。意外なようだがこの2階建ては日本家屋であり、天井や壁は木材でできている。それらが露出されヴィンテージの什器が運び込まれ、木材内装だった旧ETS.マテリオの印象へと大きく近づいた。ただし床は変更せずマットな金属のままだ。木の壁や白天井とのさりげないコントラストがモダンに映る。

右の人物がディレクターを務める金子さん。新生ETS.マテリオのオリジナルウエアを着ながら、店のオープン日に向けて服をチェック。

世界観を共有する少人数のスタッフだけで坦々と店内をセッティングしていく。同じ服が居並ぶ様子にオープンへの期待感が高まる。

スタッフが置き場所を工夫しているのは、ニットブランドのコーギーのソックス。余剰在庫を集めて販売するサステイナブル発想に基づく試みで、カラーバリエーション展開が驚くほど豊富だ。

ショップスタッフも総出で作業を続け、自分たちの店への思いを深めていく。

オリジナル8割、仕入れ2割の品揃え。

フレンチワークを代表するブルーのカバーオールと、同素材パンツを並べたラック。

デッドストックを凌駕するシャイニーな光沢を纏ったブラックカバーオール。

オープン前日。準備中に感じた期待感がさらに膨らむ店ができあがっていた。コンセプチュアルにまとまり、でもどこか煩雑。ほしいものがすぐ見つかりながら、宝探しも愉しめる。旧ETS.マテリオそのものというより、ミュージシャンが曲をセルフカバーするかのごとく、自らの過去から学んだような温故知新な世界が広がっている。

同じ服がずらりと並ぶ光景はまさしく圧巻だ。同じく金子さんが手掛ける渋谷・MIYASHITA PARK内の「レショップ渋谷店」と共通する、連続性で印象づけるディスプレイである。これらの服はオリジナルアイテムで、品揃えはオリジナル8割、仕入れ2割の構成比率。旧ETS.マテリオはセレクトショップの店名だったが、復活にあたりこの名はひとつのブランドに姿を変えた。オリジナルは彼らがパートナーと呼ぶ全国13店舗に卸されている。新宿店のオープンに先駆け大阪の「ロフトマン」でポップアップショプを開催しネット販売もするなど、運営の仕方も新体制になった。

私的にもっとも旧ETS.マテリオの雰囲気を感じたコーナー。階段を上がった立ち寄りやすい場所にある。

ETS.マテリオといえばビルケンシュトック、というのは当時を知る者たちの共通イメージ。

仕入れブランドのうち旧ETS.マテリオのファンの笑顔を誘いそうなのが、豊富なバリエーションのビルケンシュトックである。「ヘルシー、コンフォート、リラックス」がテーマだった旧店の足元といえばビルケンシュトックが基本だった。いまや多くの商業施設にも専門店があるこのブランドを再び取り扱う姿勢が頼もしい。さらにモディファイドラストのオールデンが加われば、ますます懐かしの “マテリオ”  だ。

他の仕入れは、ヴァヴァン(VAVIN)、ムーランヌフ(MOULIN NEUF)、ポキット(POKIT)、オン ザ サニーサイド オブ ザ ストリート(On the Sunny Side of the Street)といったファッション通でも知る人ぞ知るブランドばかり。現在はイギリスのテンダー(TENDER)が期間限定で並び、日本のサイ(Scye)も今後扱うそうなので楽しみである。

外観からは想像もつかないが、この建物は日本家屋をリノベートした構造。天井を支える梁が味わい深い。

40年代のイギリス軍モーターサイクルコートをモダンにアップデートしたオリジナル。裾のスナップを留めて脚に固定すればバイクに乗れる。価格は3色すべて¥80,300(税込)。

入り口から見渡した店内。入って右側が奥に広がっている。限られた型数の服を数多く並べるのが新生ETS.マテリオのディスプレイスタイル。

オープン前日の3月26日(金)に、ファッション誌編集長など影響力のあるメディア関係者を招いた説明会を開催。金子さんがプレゼンテーションを行った。

ラインアップの軸はオリジナルアイテム

ETS.マテリオ店長の会田尚人さん。ブラックカバーオールのドレッシーな着こなし。

ショップスタッフの小島涼さん。上下ベージュのセットアップはトレンドの着方。

ショップスタッフの桂大地さん。華やかなブルーをダボッと羽織るモダンな装い。

オリジナルのカバーオールを着たショップスタッフたちの佇まいに惹かれ、急遽撮影させてもらった。ストロボの光を反射する強い光沢感は、この服に使われた生地の凄みだ。エレガントな色気すら漂わせる。全18型のオリジナルのうち、カバーオールは卸しをせず新宿店のみの展開となる。デザインを手掛けたのは自身のブランドのウティ(OUTIL)ももつ宇多悠也さん。フランスに造詣が深い宇多さんによるコットンモールスキンのワークウエア生地がここにも採用された。シルエットはビンテージのように袖だけが太いのではなく、全体がモダンにゆったりとしたカタチ。価格は3色ともに、¥46,200(税込)だ。

他のオリジナルはショップコート、モーターサイクルコート、カーゴパンツ、ワークパンツ、チノパンツ、ロングシャツ、ボーダーTシャツといった幅のある構成。ミリタリー系はブラームス(blurhms)の村上圭吾さんがデザインを担当している。本物がもつよさを現代に落とし込むために、ディレクターの金子さんはスペシャリストに仕事を任せた。単に古着が好きなら、それこそ古着を着ればいい。店内では少数だが古着も置かれている。しかしファッションはコスプレではなく、人と関わるコミュニケーションツールでもある。古い時代の服を見栄えよく着こなすのは、かなり難しい行為だ。ETS.マテリオはどこに着て行っても誰に会っても気後れせず、身につけて自信を持てる服、そんな思いを抱いた。

金子さんも全身を新作でコーディネート。足元はやはりビルケンシュトックだ。

金子さんに少し聞きにくい質問をしてみた。「いまの時代、ワークやミリタリーを元にした服が多く出回っている。ETS.マテリオも同じ方向性ならばどのように差別化するのか」と。彼は真摯に答えてくれた。

「確かに皆がやっていることかもしれません。でもよりしっかりとさせ、着れば納得していただける品質にしています。ロフトマンでポップアップショップを開催した時も、着たお客様に気に入っていただけて、とてもいい売上を記録しました。パターンをすごく大切にして、着ることを強く意識しているのがETS.マテリオの特徴でしょう。ヨーロッパの古着が大好きでも、古着を無理に着る必要はありません。ジーンズやスウェットシャツのようにいつの間にか着ている服だからこそ、歴史のある原型を尊重しながら現代の服にすることを大事にしています」

毎日着るTシャツを上質なものに買い替えてワードローブを整えていくように、より完成度の高いものを求める層に支持される日常着になるのがブランドの目標なのだろう。

金子さんはレショップとの違いも語ってくれた。「ETS.マテリオはスタイルを売る店。お客様のクローゼットがここの服で埋まるような提案を行います。片やレショップはモノを紹介する店。単体を好きなように着てもらう品揃えです」

好きな世界が昔から変わらず、ディレクションする仕事はいつも金子イズムが濃厚だ。その一方で客にカルチャーを押し付けないニュートラルな姿勢も、やはり彼らしいやり方である。まずは服の持つ奥深さを体感できる新生ETS.マテリオを素直な気持ちで訪れてみよう。ワクワクして洒落心に火がついたなら、あなたはかなりの “服好き” だ。

ETS.MATERIAUX

東京都新宿区新宿3-31-9 2階

TEL:03-5369-6428
営業:11時〜20時
不定休

フレンチワークを日本に運んだ店、「ETS.マテリオ」が復活! 新生スタートの軌跡を追った。

  • 構成・写真・文:高橋一史

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