ラフ・シモンズが加入した新生「プラダ」が、 20年代のファッションを決定づける。

  • 編集&文:佐野慎悟

Share:

ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズによる、初めてのコレクションとなった2021年春夏レディスコレクション。トークセッションでは、“プラダらしさとは?”との質問を受けて、これから目指していくブランド像についても触れた。

振り返れば、2010年代はストリートカルチャーがファッション界を席巻し、ラグジュアリーブランドの価値基準が大きく刷新された年代となった。コラボコレクションを販売するポップアップストアは長い行列と〝転売ヤー〞を生み、若者はこぞってトップメゾンのスニーカーを買い求めた。メンズのラグジュアリー市場全体がこれほどの賑わいを見せたことは、いままでに前例がない。しかし20年代に突入すると、世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるい、ファッションが以前のような熱狂を巻き起こせる機会が激減したのと同時に、〝ニューノーマル〞〝サステイナビリティ〞〝ダイバーシティ〞といった新しい流れに対応したものづくりと、もの選びの考え方とが改めて問われるようになってきた。

誰しもが漠然と、時代が移りゆく空気を肌で感じ取っているなか、ファッション界にはひとつの象徴的な出来事が起こった。ラフ・シモンズが、プラダの共同クリエイティブ・ディレクターに就任したのだ。

ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズという、現代のモードを築き上げてきた中心人物であり、いまもカリスマ的な人気を誇るふたりの鬼才が、手に手を取り合って新たなファッションを模索していくというニュースには、今後大きなうねりとなって押し寄せてくるであろう、新時代の到来を確信せざるを得ない。ここでは、昨年9月の2021年春夏レディスコレクションと、今年1月の2021年秋冬メンズコレクションの直後に公開されたふたりの対話をもとに、これからのファッションについて考えてみる。

ラフ・シモンズのプラダ加入後、これまでにふたつのコレクションがオンライン上で発表されたが、毎回ショーが終わると、ミウッチャとラフによるトークセッションが始まる。これは彼らが一方的にコレクションのコンセプトを伝えるためのものではなく、世界中から投げかけられた質問に対して、ふたりが回答するというスタイルのものだ。これまではプロのジャーナリストによるインタビューという形で、限られたメディアの上でしか触れることのできなかった彼らの言葉が、突如世界に向け、ダイレクトに発信されたのだ。

このトークセッションでは、ふたりがつくる新しいプラダ像や、ファッションの未来、あるいは私生活などについても幅広いディスカッションが繰り広げられたが、そのなかでも特に印象的で、これからのもの選びのヒントになりそうな会話が、ある日本人女性の質問を発端に始まった。

今年1月の2021-22年秋冬メンズコレクションの後に行われたトークセッションでは、世界中の学生が登場した。ふたりは彼らの質問に対して真摯に答えながら、学生ならではの意見や主張にも耳を傾けた。

ーープラダは常に〝ユニフォーム〞という概念を追求してきましたが、おふたりにとってのユニフォームとは?

ラフ・シモンズ(以下ラフ) 私がプラダに来てから数カ月の間、ミウッチャと話していたことは、まさに〝現代のユニフォームについて〞でした。それは比喩的な意味で、着ていて心地がよく、自分自身をうまく表現できて、かつタイムレスなもの。私はミウッチャがどんな服を着て、自分自身のユニフォームにしているのかを観察してきました。それが新しいプラダのインスピレーションにもつながっています。私の個人的なユニフォームは、プラダの黒いパンツに、シンプルなシャツ。10年以上変わっていません。

ミウッチャ・プラダ(以下ミウッチャ) 私の場合は、ひとつのスタイルに固執することなく、このユニフォームから、次のユニフォームへ、という具合に、どんどん乗り換えていく感覚です。これもいつまで続くかわかりませんが、現時点のユニフォームは、白いコットンのプリーツスカートに、ブルーのセーター。個人的にも、ユニフォームという概念は大好きです。

ラフ ユニフォームはとてもパーソナルなもの。われわれデザイナーとしても、自己表現のベースとしてのユニフォームを提供している感覚をもっています。私の場合、パンツとシャツは常にニュートラルなものを選んで、コートとシューズには、エクストリームなデザインのものも含めて、そのときどき気に入ったものを、次から次へと取り入れていきます。それでもユニフォームというベースがあるから、自分の軸がずれることはありません。

今年1月のメンズコレクション終了後に行われた第二回目のトークセッションでは、世界中から選ばれた学生たちとテレビ通話をつなぎ、ふたりがリアルタイムで議論を交わした。

ーーこのコレクションはどんな人のためにデザインされましたか?

ラフ 〝こういう人〞と限定することなく、少しでも興味をもってくれる人、共感してくれる人たちすべてに向けてデザインしています。

ミウッチャ 私の服を誰が買って、どのように着るのか、その部分はまったく気にしたことがありません。

ラフ 私が提案した着方とは、まったく違う着方をしている人を見ること自体がとてもよい刺激になり、デザインのモチベーションにもなるんです。

まずは自分自身にいちばんフィットした、ユニフォームと呼べるアイテムを見極めること。そこにトレンドや新しい要素を自分なりのアレンジで組み合わせ、偶発的に生まれるスタイルを楽しむこと。20年代のファッションは、これまで以上にパーソナルなものへと変化していきそうだ。

ついにベールを脱いだ、新生プラダの輪郭。

2021年秋冬メンズコレクションでは、世界中で、人やものとの物理的な距離が広がっている現在の状況を反映し、触覚を通したフィジカルな感覚や、他者とのコミュニケーションがもたらす根源的な喜びに向き合った。コレクションの会場となったのは、屋外とも屋内とも取れるような、いくつもの区画に区切られた四角い空間だ。見るからに触感の異なる素材が張り巡らされた壁や床は、実際に触ってみたい、感じてみたいという原始的な欲求をかき立てる。

今年1月にオンラインのライブストリーミングで発表された、プラダの2021年秋冬メンズコレクションは、ラフ・シモンズのブランド加入後初となるメンズコレクションとして世界的に注目され、大きな話題となった。

ミニマルなテクノ・ミュージックにのせて披露されたコレクションは、プラダの洗練されたエレガンスをベースとしながら、初期「ラフ・シモンズ」のダークな世界観と圧倒的な先進性を想起させるような、シンプルかつ力強い内容だった。そこには10年代のスタンダードとして定着していたストリートカルチャー、スニーカー、社会的取り組みなどに対する直接的な言及はない。我々が代わりに見せつけられたのは、センス、技術、知識、経験、リーダーシップ、そのすべてを高レベルで持ち合わせたふたりのファッションデザイナーが全力で表現した、どこまでも純粋なファッションそのものだった。ミニマルに表現された新しいプラダのメンズウエアは、ファッションの根本的な素晴らしさや楽しさを、改めて再確認させてくれた。

コレクションのファーストルックは、プラダでは珍しいピンストライプのテーラードルック。身体にぴったりと密着する、ニットのインナーとともに提案された。

ニットのカーディガンも身体に密着するシルエットで、身体的な特徴を活かしたデザインに。

ラフ・シモンズの得意とするコートも、素材や形違いで数多く提案された。

今季ヒットアイテムとなりそうな、オーバーサイズのレザーブルゾン。グローブにはミニサイズのポーチが付属している。