写真家・上田義彦が初監督作の映画『椿の庭』で描くのは、家に宿る人の記憶。

  • 文:山田泰巨

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富司純子演じる絹子、シム・ウンギョン演じる渚。祖母は孫娘が古い日本家屋で暮らす一年を描く。photo: ©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

写真家、上田義彦が初めて手がけた映画監督作品『椿の庭』が公開される。その物語は上田の住まいと深いつながりをもって生まれたものだ。まずそもそものきっかけは、かつて上田が暮らした古い和洋折衷の住まいに植えられていた乙女椿にあるという。

「けっして広い住まいではありませんでしたが、4月になると庭の椿が見事な花をつけました。ただ借家でしたし、いつかこの花を見ることができなくなる日が訪れる……そんな喪失感に襲われたのです。そんなある日、近所にあった大きな庭木のある家が解体されていました。そこで自宅に戻り、目的をもたずに書き進めた物語が『椿の庭』の原型となったのです」

椿が咲く高台の家に暮らす祖母と孫娘、そしてそこを訪れる人々を描く本作。甲斐甲斐しく手入れされた庭に咲く草花が四季を彩り、季節のうつろいとともに家族もまた変化する。なにげない日々を描きながら、静かな物語はやがて大きな変化を迎えていく。主演を務めるのは日本映画界を代表する女優、富司純子。そして日本と韓国で活躍し、主演を務めた『新聞記者』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョンだ。

物語を着想したのが上田自身の住まいであったように、映画に登場する住まいもまた上田が所有する海辺の別邸。古民家を移築し、手を入れながら家族とともに時を重ねた場所だ。

「家とは人の記憶が宿る装置のように思います。柱の傷や古い窓ガラスの歪みのような、些細なものに個人的な記憶が宿ります。家とともにそれが失われると、些細な思い出を引き出す術がなくなってしまいます。その一瞬一瞬が、実は奇跡のような時間だと思うのです。二度と起こらず、目にすることができない時間を捉えるように撮影を進めました。もう一つは丁寧に作られた日本の家がもつ美しさを収めたかった。その佇まい、光のあり方、なかなか不便なところもありますが、そこで暮らす人の佇まいを描きたかったのです」

上田の目に映る風景は、映像になって時間が加わった。作中に流れる時間に、私たちは思わず自身の記憶を重ねてしまうだろう。春に芽吹く草花、夏の日差し、秋に吹く風、冬の冷えた空気の香り。スクリーンに映し出される物語は視覚に留まらず、五感すべてに語りかけてくる。

写真同様、映画も自然光のみで撮影を行っており、光と影のコントラストが物語に奥行きを与える。photo: ©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

四季の変化とともに物語は進む。撮影も春夏秋冬それぞれに行われ、草花はもちろん、光や空気までをも捉えた映像は独自の美しさをもつ。photo: ©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

上田義彦(うえだよしひこ)●1957年兵庫県生まれ。写真家。映画監督。多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授。日本写真協会作家賞、東京ADC賞、ニューヨークADC賞など、国内外の様々な賞を受賞。2011年にGallery916を主宰。代表作に、ネイティブアメリカンの聖なる森を捉えた『QUINAULT』、前衛舞踏家・天児牛大のポートレート集『AMAGATSU』、自身の家族にカメラを向けた『at Home』、生命の源をテーマにした『Materia』シリーズ、30有余年の活動を集大成した『A Life with Camera』など。近著には、Quinault・屋久島・奈良春日大社の3つの原生林を撮り下ろした『FOREST 印象と記憶 1989-2017』、一枚の白い紙に落ちる光と影の記憶『68TH STREET』、『林檎の木』などがある。photo: © HIRAOKA SHOKO


『椿の庭』

監督/上田義彦
出演/富司純子、シム・ウンギョンほか
2020年 日本映画 2時間8分 
4月9日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開。
www.bitters.co.jp/tsubaki
 

写真家・上田義彦が初監督作の映画『椿の庭』で描くのは、家に宿る人の記憶。

  • 文:山田泰巨

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