『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が描く、分断される世界に差す一筋の光。

  • 文:此花わか(映画ライター)

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アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』を製作したA24とプランB が手がけた。主人公を演じたジミー・フェイルズと監督のジョー・タルボットによる短編がサンダンス映画祭などで高い評価を得たことで、長編デビューにつながった。 ©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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サンフランシスコで生まれ育ったアフリカ系のジミーは、子どもの頃に家族と仲良く暮らしたヴィクトリア朝様式の家が忘れられない。さまざまな肌の色の人々が訪れていたその家は、いまでは裕福な白人の老夫婦のものになってしまった。ところがある日、その家が空き家になり、ジミーは友人モントとこっそり移り住むが……。

この映画は、ジミー役を演じたジミー・フェイルズの半自伝的な物語だ。フェイルズと10代の頃に出会った監督のジョー・タルボットは、彼のパーソナルな物語を通して「ジェントリフィケーション」により「家」から追い出された人々を映し出したかったという。

サンフランシスコはもともと労働者や移民、マイノリティにとって住みやすい土地であり、1950~70年代にかけてビート・ジェネレーション、ヒッピー・ムーブメント、LGBTQ運動を牽引してきた。しかし90年代以降、シリコンバレーの発展により、最先端のIT企業に勤める白人富裕層が流入。都市は高級化され、もはや社会的少数派の居場所ではなくなった。

昨年アメリカで公開された本作に、コロナ禍やBLMを想起させる場面が散見されることに驚く。たとえば、防護服で海岸沿いを掃除する人。街頭で演説するアフリカ系の男性。この点について監督は「アフリカ系の多い集合住宅が汚染地域に建てられ、子どもたちが病気になっていることを描きたかった。行政に無視されてきたり、警察に殺されたりしてきた彼らがコロナ禍でようやく可視化され、この映画と共鳴したのだと思う」と話す。

劇中、ジミーの「家」をモントが小さな劇場にする。そこにサンフランシスコの多様な人々が集い、言葉を交わし、亡くなった人の思い出を語る。それだけのシーンがなぜか無性に感動的なのだ。分断される世界に差す一筋の光を、この映画に見た。

©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
監督/ジョー・タルボット
出演/ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャースほか 2019年
アメリカ映画 2時間 10月9日より新宿シネマカリテほかにて公開。
http://phantom-film.com/lastblackman-movie/