筋骨隆々の身体にレザージャケットとピチピチのデニム、白いタンクトップをまとい、ときには頭にポリスキャップを。いまやステレオタイプのひとつとなったゲイの姿をビジュアル化して広めたアーティスト、Tom of Finland(1920-1991)の個展が日本で初めて開催される。
フィンランドに生まれたTom of Finlandことトウコ・ラークソネン。ピアノや絵を愛する芸術家志向の彼が第二次世界大戦で従軍し、そこで初めて恋をした相手が同じく軍に所属するパイロットだった。終戦を迎え、ラークソネンは昼に広告会社で働き、夜は自室にこもって戦場で出会ったたくましい男たちの絵を描き続けた。同性愛が法律で禁止されていた当時、夜に自室で生み出すファンタジーに没頭していたのだ。スケッチブックに描かれる兵士はやがて肉体労働者に、さらには警察官やバイカーなどマッチョな装いに身を包む屈強な男たちへとモチーフが展開していく。やがてラークソネンの作品は、アンダーグラウンドのゲイコミュニティ内で人気を集めるようになった。
そして1957年、フィンランド語の自分の名前がわかりにくいだろうと考えたラークソネンは、「Tom」の署名でアメリカのフィットネス雑誌『Physique Pictorial』に作品を送った。掲載された時のアーティスト名が「Tom of Finland」。アメリカで同性愛者の権利運動を推進していた同誌の読者たちは即座に反応した。屈強な身体を誇りたいゲイたちの存在も世間に知ってもらえるのだと。
Tom of Finlandの生誕100周年の今年、日本で初めて開催される個展では、作風の変遷を辿るのと同時に、世界に向けてLGBTQの権利を主張した社会活動家としての一面も紹介される。同性愛が禁じられていた終戦後のフィンランドで、トウコ・ラークソネンは人目に隠れどのような気持ちで欲望をスケッチブックに吐き出していたのだろう? やがて、LGBTQの権利を主張する声の高まりを肌に感じながら、アメリカで評価を得て大きな解放感を得られるまでに至ったときには、どれだけの達成感を感じたのだろう? 性的マイノリティとして主張を続けたTom of Finlandの作品の変遷を辿ると、彼にとっての表現がまさに人生を賭けたライフワークだったということが感じられるはずだ。
Reality & Fantasy The World of Tom of Finland
開催期間:2020年9月18日(金)〜10月5日(月)
開催場所:GALLERY X(渋谷PARCO B1F)
東京都渋谷区宇田川町15-1
TEL:03-6712-7505
開館時間:11時〜21時
※展示室入場は閉廊の30分前まで
※11月下旬に心斎橋PARCOに巡回予定
会期中無休
入館料:一般¥500
https://art.parco.jp
サテライト展『Tomへの頌歌』
開催期間:2020年9月21日(月)〜11月30日(月)
開催場所:The Container(BROSS TOKYO内)
東京都目黒区上目黒1-8-30ヒルズ代官山1F
TEL:03-3770-7750(BROSS TOKYO)
開館時間:11時〜21時(月、水〜金)、10時〜20時(日、祝)
休廊日:火、第3月曜
入場無料
http://the-container.com