1位.招待状のないショー (『招待状のないショー』収録)
2位.あこがれ (『断絶』収録)
3位.移動電話 (『永遠のシュール』収録)
井上陽水の50周年に伴いフル稼働した人といえば、同郷でいちばんの遊び仲間でもあるリリー・フランキーさん。
「陽水さんの50周年に関するラジオやテレビに相当出ましたが、もう話し飽きました(笑)。本人以上に出たんじゃないかな。でも地元の先輩だしね」
親しみを込めて冗談交じりにそう話すリリーさんだが、井上陽水の音楽に関してはリスペクトの言葉しかない。
「陽水さんの歌は、とにかく一曲も古くならない。それが凄い。50年前の曲なんか、古いという前提で聴かないと耳がアジャストしないけど、陽水さんの曲はまったくそんなことがない」
聴き手に解釈を委ねる、純文学のような情景描写。
ファーストアルバム『断絶』の1曲目 「あこがれ」を聴き衝撃を受けた子どもの頃から、いまなお瑞々しく聴ける陽水作品。その理由は歌詞にもある。文筆家でもあるリリーさんは、井上陽水の言葉の紡ぎ方に影響を受けてきた。
「新しいモノを歌詞にすると、数年すると古びてしまうじゃないですか。『移動電話』という曲があって、移動電話という言葉はもう誰も使わないけど、この曲が古びたようには感じない。それは移動電話というモノの表層を描いているのではなく、本質的なことが歌われているから。『ジェラシー』に《はまゆりが咲いているところをみると どうやら 僕等は海に来ているらしい》という歌詞があるけど、この表現は文学以上のものですよね。『らしい』というこの距離感、情景描写が純文学以上」
そんな陽水作品を知り尽くしたリリーさんが選んだ一曲は……。
「順位に意味はないですけど、手練手管というか文学的な手法ではなく、まっすぐに書かれているのが『招待状のないショー』。よくカラオケでこの曲を本人の前で歌うのですが、『通俗的な曲が好きなのね』と言われるんですよ。この曲は最近ライブで聴いたことがなかったから『楽器を持たずピンスポットを浴びて、フランク・シナトラみたいに歌い上げたらかっこいい』と伝えたことがあったんです。それから半年後くらいのライブのアンコールで、陽水さんがギターを持たずに歌ったんですよ。感動して、楽屋に行ったら、『どうだった、あなたのリクエスト?』って(笑)。だからときどき、こういう曲がありますよって本人に教えてあげないといけない。名曲を忘れているから(笑)。先輩が大好きなビートルズより、オリジナル曲をもっているわけですから」
こちらの記事は、Pen 2020年5月1・15日合併号「【完全保存版】井上陽水が聴きたくて。」特集からの抜粋です。