吉澤嘉代子が選ぶ、井上陽水楽曲のMY BEST 3──突飛な描写を納得させる不思議な歌声が、私の音楽的なルーツになっています。

  • 文:丹野未雪

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1位.白いカーネーション (『陽水II センチメンタル』収録)

2位.長い坂の絵のフレーム (『九段』収録)

3位.東へ西へ (『陽水II センチメンタル』収録)


YUKIや私立恵比寿中学への楽曲提供などでも注目を集める、吉澤嘉代子さん。井上陽水を音楽的ルーツとする彼女だが、そのきっかけは陽水ファンの父だったという。

「クルマの中で流れている音楽が、陽水さんか父が歌う陽水さんっていう英才教育を受けまして(笑)。最も古い歌唱の記憶は父と歌った『白いカーネーション』です」

生粋の陽水リスナーである吉澤さんが最も好きな歌詞は、「長い坂の絵のフレーム」だ。

「子どもの頃に聴いて、《時々はデパートで孤独な人のふりをして》《生まれつき僕たちは悩み上手に出来ている》という詞に人間の滑稽さを感じて。長く険しい人生も、フレームで捉えてみると軽くなるような、ちっぽけなものに感じられたんです」

自発的に陽水の楽曲を求めるようになったのは「東へ西へ」だと語る。

「《床にたおれた老婆が笑う》というフレーズにドキリとして。不気味でタブーが描かれているような感覚。陽水さんの詞には冷ややかな視線があって、非人間的でありつつ人間ぽいなと思えて惹かれます。陽水さんの魔法みたいな不思議な迫力がある歌声には、歌詞の独特さ、おかしみや突飛な描写を納得させる力があると思うんです」

吉澤嘉代子●1990年、埼玉県生まれ。2013年ミニアルバム『魔女図鑑』でデビュー。バカリズム主演・脚本のテレビドラマ『架空OL日記』の主題歌として「月曜日戦争」が話題に。

こちらの記事は、Pen 2020年5月1・15日合併号「【完全保存版】井上陽水が聴きたくて。」特集からの抜粋です。