パリのイメージが華やかに香る――。創業の地にオマージュを捧げた、ディプティックの新作フレグランス

  • 文:高田昌枝(パリ支局長)
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洗練されたフレグランス、センスあふれるグラフィックデザインで知られる老舗ディプティックが、創業地パリにオマージュを捧げる新作を発表した。

アール・ヌーヴォー スタイルの瀟洒な植物に、パースペクティブにデザインされた「EAU CAPITALE」の文字がシャープに映える。3月14日までは、ピエール・マリーの描いたアール・ヌーヴォー デザインの限定ボックスで発売。「オー キャピタル」75㎖ ¥20,500(税込)

ディプティックは、1961年、パリ、サンジェルマン大通り34番地に生まれた。創業者は、美術と装飾の分野で活躍していたクリスチャンヌ・ゴトロ、イヴ・クエロン、デスモンド・ノックス=リット。店は、入り口の左右にウィンドウをもつ外観から、絵屏風を意味するディプティックと命名された。オリジナルのインテリア生地を提案した店がその名を知らしめたのは、旅を愛する3人が異国から持ち帰った雑貨のセンスのよさだった。

63年、ディプティック初となるフレグランスキャンドル「オべピン」「カネル」「テ」の3種を発表すると、たちまちメゾンを代表する人気アイテムになる。68年には17世紀のポプリのレシピに着想を得たスパイスいっぱいのオー ド  トワレ「ロー」でフレグランスに進出。パリを代表する香りとキャンドルのトップブランドとして、シックなパリジャンのマストアドレスになった。

本店は、創立当時と変わらぬ佇まい。扉の左右にウィンドウをもつ外観から、ディプティック(絵屏風)という名を発想したのも、美術と装飾の世界に造詣の深い創業者たちらしい。

いまでは世界中に店舗を置くディプティックだが、1961年からのこの本店だけは独特の佇まい。インテリアファブリックと雑貨を扱っていたという創業時の様子が目に浮かぶよう。

サンジェルマン大通りの本店は、いまも創業時代を彷彿させる。2階にはアーカイブがあり、画家だったデスモンドが残した絵画や布地のためのデザイン画、3人が旅から持ち帰ったオブ創業以来のスタイルを守る、グラフィックデザインジェが収められている。2005年までイヴが使っていたオフィスも残されており、メゾンのクリエイティブチームがアイデア探しに訪れる、創業者たちの好みをいまに伝える場所だ。

なかでもひと際目を引くのは、ディプティックのスタイルをつくり上げたデスモンドのデザイン画の数々だ。たとえば、踊るようにアルファベットが順不同にあしらわれたキャンドルのオーバル形のラベルデザイン。まるでクイズのようにキャンドルの名前を読み解かせる遊び心のあるデザインは、創業者の時代から続くメゾンのシンボルだ。

ディプティックの創業者たち。左から、イヴ・クエロン、クリスチャンヌ・ゴトロ、デスモンド・ノックス=リット。画家のデスモンドはロゴやデザインも手がけ、ディプティックのスタイルをつくった。

イヴは本店の上に自宅とオフィスを構えていた。本店2階に再現された彼のオフィスには、デスモンドの描いた劇場の絵画や外国のオブジェも置かれ、創始者たちの好みと当時の気分を偲ばせる。

フレグランスキャンドルのオーバル形のラベルは、まさにディプティックのスタイルの代表。ROSES、CEDREなどのアルファべットが時に順不同に踊るように配置されたロゴは、秀逸なデザインだ。

また、フレグランスのラベルにも、創業者たちが生んだひとつのスタイルがある。それは、横長のパノラマ・デッサン。新しい香りとともに、その香りの想起させる世界を語る絵巻が描かれるのだ。そして、あたかもオーバル形の窓で風景の一部を切り取るように、ラベルがデザインされる。ラベルの表側には香りの名が記され、ボトルの液体を通して見えるラベルの裏側には、象徴的なデッサンが描かれる。デスモンドがつくり上げたこのコンセプトはイヴが引き継ぎ、現在も、コラボレートするアーティストたちの手によってさまざまに解釈されながら、ひとつのスタイルとして貫かれている。

アーカイブには風景のスケッチを描いた旅の手帳や異国情緒あふれるオブジェも並ぶ。初期のフレグランスのラベルのためのデッサンや、おもにデスモンドが描いた布地のデッサンも数々残されている。

パリを表現する、シプレ、ローズ、アール・ヌーヴォー

ピエール・マリーが「オー キャピタル」のために制作したパノラマ。セーヌ川とエッフェル塔のある風景に、原料の花々と孔雀が、アール・ヌーヴォー スタイルで描き込まれた。

ギリシャに物語を求めた「フィロシコス」、江戸にちなんだ「オイエド」など、ディプティックの香りは、しばしば、異国への旅に着想を得てきた。

「ですが、創業の地であるパリについて、私たちはこれまで語ってきませんでした」というのは、クリエイティブディレクターのミリアム・バドー。新しいフレグランス「オー キャピタル」は、本拠地パリにオマージュを捧げる香りだ。キャピタルとは、フランス語で首都を意味するが、基本的なこと、大事なこと、の意味ももつ。60年近くもパリ・シックを代表してきたメゾンの真髄がここに集約されている。

「オー キャピタル」の原料、ピンクペッパー、ローズ・アブソリュート、ベルガモットなど。背景はピエール・マリーのデザイン画をもとに手仕事でつくられたステンドグラス。

香りを手がけたのは、調香師のオリヴィエ・ペシュー。彼がパリにイメージしたのはシプレの香りだ。バドーは言う。

「シプレはひとつの花を巡るノートではなく抽象的な香り。そのエレガントでミステリアスな表現は、パリとはなにか、につながると感じました」

そもそもシプレはフランソワ・コティが1917年に発表したフレグランス。大成功を収め、香りの分類のひとつとして定着するまでになった。「シプレの基本要素は、ベルガモット、カルダモン、パチュリ、オークモスの4つ。ジェンダーレスでユニークなシグネチャーをと考え、ローズ系シプレでパリらしさを表現することにしました」と言うのはぺシューだ。フレッシュなベルガモット、リッチなパチュリに、ローズオイルとローズ・アブソリュートをプラス。

「最後に、メゾンのDNAであるスパイシーなアクシデントを加えました。まるでシャンパーニュのボトルを開けた時のように、ピンクペッパーが弾けます」

同時発表のキャンドル「パリ アンフルール」では、ローズにさらにこだわった香りを提案している。

ディプティックの本社に残る、サラ・ベルナールのバスルームは歴史建造物指定。花鳥風月の描かれたタイルが壁一面を覆う。パリとアール・ヌーヴォーの縁を実感させる空間だ。

パリを表現する香りがシプレとローズなら、スタイルはアール・ヌーヴォー。数年前に本社を移したディプティックの新オフィスは、くしくもアール・ヌーヴォーの芸術家たちのメセナだった、サラ・ベルナールゆかりの建物。アール・ヌーヴォー様式の美しいバスルームも保存されている。

「パリの街にはメトロのギマール・デザインをはじめ、ミュシャやトゥールーズ=ロートレックの足跡も残っています。日常に息づくアール・ヌーヴォーは、シプレが誕生した時代のスタイルであり、60〜70年代の創業期にもカムバックしていた。自然をモチーフにした、ディプティックに通じるスタイルなのです」。そう解説するのは、デザインを手がけたピエール・マリーだ。

メゾンの伝統に則って描かれた「オー キャピタル」のパノラマには、セーヌ河とエッフェル塔の見える風景に、様式化された花々が寄り添う。オーバル形のラベルにはバラやジャスミン、パチュリなど、原料となる植物が描き込まれ、エッフェル塔が隠されている。ボトルを裏返せば、ブランドを象徴し、サラ・ベルナールの浴室にも描かれた孔雀が見える。ディプティックの描くパリがここにある

同時にお披露目されたキャンドルは、ローズのイメージを強調しながらも、調和のとれた香りを放っている。限定版「パリアン フルール」¥8,900(190ℊ、税込) ¥5,000(70ℊ、税込)

●ディプティックジャパン TEL:03-6450-5735