空に浮かぶ巨大ブーツがやってくる! 仕掛けるのは、イギリスの老舗ブランド「ハンター」

  • 文:高橋一史

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イギリスからスタートして、世界中で開催中のキャンペーン「フライングブーツプロジェクト」。

2018年7月、イギリス・スコットランドの上空に突然、巨大なロングブーツが現れた。それはブーツ形状の熱気球、“フライングブーツ” だった。このキャンペーンを仕掛けたのはイギリス王室御用達の老舗ブランド、「ハンター」。気球のモチーフになった型は、代表モデルのウェリントンブーツだ。イギリス人が親しんでいる生活道具がゆっくりと空を舞う光景は、まさしくファンタジー。同イベントは19年末までに、スペイン、イタリア、ベルギー、アメリカなど各国の空を制覇。そして20年を迎えた今年ついに、日本に上陸する。開催時期はまだ未定だが、行われる日はSNSでも大きな反響を呼ぶだろう。

イベントの陣頭指揮を取ったのが、イギリス人クリエイティブ・ディレクターのアラスディア・ウィリスだ。シューズ中心だったハンターにバリエーション豊かな服やバッグを加え、トータルブランドに成長させた立役者である。「ウィットの効いた穏やかな紳士」といった印象の彼が、プロジェクトを語った。

「かなり前から計画して、18年にようやく実現できたんです。スコットランドから始めたのは、ここがハンターの発祥の地だから。ロンドンの国会議事堂の上にも飛ばしました。実は裏話になるんですが、ロックの野外フェスの『グラストンベリー・フェスティバル』の上空にも出現させたかったんですよね。25万人以上が集まり、会場でハンターを履く若者も多いこのフェスでやれたら本当によかった。許可が降りなくて断念しましたが。でも日本での開催も計画してるから、狙うのは『フジロックフェスティバル』の上空かな 笑」

クリエイティブ・ディレクターのアラスディア・ウィリス。写真:大瀧 格

街を巻き込むイベントや、モードとのコラボも。

ロンドンの街中に設置された3個の大きなバルーン・バックパックを探すキャンペーンも、19年10月に行われた。アイコンバッグをアピールした企画で、20年に東京でも開催予定だ。

1990年代半ばには、世界に知られたロンドンのクリエイティブな雑誌「ウォールペーパー」で、設立当初から働いていたウィリス。画家でもあったアート畑の彼は、人と一緒に仕事をする面白さに目覚めたという。
「ウォールペーパーは、旅行業もやるような素晴らしいプラットフォームでした。私のベースには常に “クリエイティブ” がありますが、あの会社で仕事するときはエゴを抑え、人とコラボレートすることを意識していました。この時の経験が、現在の役職に役立っています」

そう語るウィリスは、19年秋にファッションデザイナー、ステラ・マッカートニー(以下、ステラ)とコラボしてブーツを発売した。デザインの才能に定評があり、動物愛護やサステナビリティの活動家としても知られるステラは、ザ・ビートルズのポール・マッカートニーの娘である。そして、ウィリスの妻でもあるのだ。夫婦間のやり取りについて彼に、「喧嘩しませんでしたか?」と冗談で尋ねたら、
「それはない、ない!」と笑いながら否定。すぐに真剣な顔に戻って話を続けた。
「人からは、『なぜいままでコラボしなかったの?』とよく聞かれます。実はこの時期がお互いに絶好のタイミングだったんです。ブーツの履き口に使いたかった、ネオプレンに似た風合いの素材、植物原料からつくった『ユーレックス』が新開発されたのです。ヴィーガンでサステナブルなプロダクトですからステラも納得しましたし、志が同じハンターにとっても願ったりの製品になりました」

デモクラティック・デザインを掲げるハンターは、高級感がありながら服も小物も大半がリーズナブルプライスだ。動物にも環境にも優しい製品づくりはコストダウンには足かせになりがちだが、彼らはその道を突き進んでいる。アーティスティックな活動を続けつつ、社会的責任を果たす企業にもなったハンターこそ、未来まで “持続可能な” ブランドなのだろう。

ステラ・マッカートニーとコラボしたブーツ。19-20年秋冬パリコレクションで発表された。

「東急プラザ銀座」内にある、16年に誕生した「ハンター銀座フラッグシップストア」。グラフィカルな中にも自然界の優しいモチーフが息づく、ウィリスの世界観が感じられる店だ。

●問い合わせ先/ハンタージャパン カスタマーサービス
TEL : 0120-563-567
www.hunterboots.com