ファッションについて語るときに、あの人の語ること。【小木基史(Poggy)編】

  • 写真:杉田祐一
  • スタイリング:井藤成一
  • 構成:海老原光宏
  • イラスト:face_oka

Share:

最新の洋服に身を包んだ人=お洒落な人だろうか? ファッションが自分を表現するためのものであるならば、なにを着るかはもちろん、考え方やこだわりも、人の数だけあっていい。世界を股にかけるスタイルアイコン、ファッション・ディレクターの小木基史(Poggy)さんに存分に語っていただきました。

小木基史(Poggy)ファッション・ディレクター/ユナイテッドアローズ&サンズのディレクションなどを手がける。世界を股にかけるスタイルアイコン。

ハットに挑戦し続けて、僕の“顔”を手に入れた。


帽子はキャップ、ハンチングなどいろいろ被るのだが、ハットがいちばん好きだ。いまではハットにヒゲというスタイルが、僕のイメージになっている。ハットはクラシックでジェントルマンなイメージなので、僕みたいにカジュアルなファッションが多くても引き締まる感じがする。どこかドレステイストを残したい時に最適だ。毎日スケジュールに合わせてスタイリングをある程度考えていて、最終的に朝起きた時の気分や天気で決定し、それに合わせてハットをチョイスしている。被り続けてもうかれこれ10年くらいだろうか。僕は服に色を取り入れることが多いので、ベージュやグレーなど落ち着いた色のハットが好みだ。毎シーズン2~3個は買っている。

ハットってスタイリングがいちばん難しいアイテムだと思う。だから、挑戦している感じもある。だんだん着こなすポイントがわかってきて、クラウンは少し高め、ブリムは8~9㎝が自分に似合うと思っている。特に重要なのが全体のシルエットだ。たとえばジャケットに合わせる時、ショルダーがナチュラルだったり肩パッドが入っていたりするが、ハットのスタイルもそれに合う、合わないがあるのだ。顔には合っているけど、全体を見るとどこか変だったり。自分に似合う色やかたちをいろいろ被って探してきた。

ところどころネズミにかじられたような穴がデザインのアクセントになった“チーズハット”。生地は固めのフェルトを使っているため型崩れしにくく、軽い被り心地。まるでアートピースのような存在感で、クラシックとカジュアルが交差する。ハット¥105,000(税抜)/ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン クライアントサービスTEL:0120-00-1854)

アーティストのサインで、自分らしいフィールドに。

最近、ブリムの裏にアーティストにサインしてもらうことにハマっている。7月に富士山麓のふもとっぱらキャンプ場で「カウズ:ホリデイ」が開催された際、来日したカウズ本人にサインしてもらった。サインが欲しいアーティストが来る展覧会のレセプションには、まっさらなハットを被っていくこともある。サインしてもらうアーティストは、自分のファッションルーツとも重なるストリート系の現代アーティストが多い。

ブリム裏にサインを入れてもらうのが小木流。写真左はカウズのサインが入った「アートカムズファースト」のハット。

サインをもらうようになったきっかけは、2016年にアディダスが制作したスケートボードムービー『アウェイ デイズ』の試写会で、マーク・ゴンザレスにサインを頼んだことが始まりだ。色紙など持っていなかったので、被っていたハットを脱いでこちらへ、って。他に同じことをしている人を聞かないので、自分のスタイルの差別化にもなっていると思っている。

このサインで、ハットというクラシカルなアイテムを自分のフィールドに引き込めた感じもする。僕は、「リカー、ウーマン&ティアーズ」というセレクトショップをユナイテッドアローズ社内の公募で立ち上げ、2010年にクローズした後、ユナイテッドアローズのドレスチームに入ってメンズクローズの基本を学ばせていただいた。ピッティウオモなどにも行き、ビスポークスーツも仕立ててみた。やはりファッションは基本を知ってこそ崩せるので。でもかっちりしたスタイルはかっこいいのだが、着れば着るほどどこか本来の僕じゃないなあという思いが増していった。そんな折、ステューシー創業者のショーン・ステューシーが自身のブランド「エスダブル」のショップオープンの際に来日した時があって。僕はオープニングパーティにフィレンツェのサルトリア、リヴェラーノ&リヴェラーノで仕立てたスーツで行ったのだが、それにショーンがサインを書いてくれた。いいスーツだから内側に書くぞ、と言われて(笑)。このサインによって、自分の中でスーツを自分のゾーンに引き込んだと感じることができた。ハットのサインもこのリヴェラーノ&リヴェラーノの体験に近いのだ。

ハットって決して被りやすいものじゃないし、乗り越える忍耐みたいなものがちょっと必要だ。スーツも動きにくいので似ているのだが、その制限される中で、着用し続けるとなにかが生まれることがある。ある映画で、女性は子どもを産むという目的に向かって動いている、というフレーズがあった。男は女と比べて幼稚な部分も多い気がするので、いろいろ寄り道したりして挑戦していくことも大切なのではと思う。ハットも挑戦だ。限られた中でいまっぽさをどう取り入れるか考えるのが面白いのだ。

右:帽子職人の弦巻史也が手がけるハットは、肉厚ビーバーフェルト200gを贅沢に使用。ハット¥100,000(税抜)/THE H.W.DOG&CO.(THE DOG&CO.TEL:03-6427-9011) 左:個性が際立つマウンテンハットは、ブリムの齧ったようなチップがアイコニックな一品。ハット¥42,000(税抜)/5525gallery×KIJIMA TAKAYUKI(5525gallery store.5525gallery.com)

今年150周年を迎えるアメリカのハットブランド、ステットソンに合うシルバーアクセサリーとしてデザインされたチャプター ジン。ヴィンテージのシルバーでつくられたスワロー形のピンが、リボンの上でそっと個性を演出する。ピン¥13,000(税抜)/チャプター ジン、ハット¥57,000(税抜)/ステットソン(以上ステットソンジャパンTEL:03-5652-5890)

こちらの記事は、2019年 09月15日号「ファッションについて語るときにあの人の語ること。」からの抜粋です。