ピクサーの作品は、想像力と技術の融合から生まれる——。『トイ・ストーリー』に携わり続けた小西園子さんが夢見る、アニメーションの未来とは?

  • 写真(人物):大瀧格
  • 文:泊貴洋

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小西園子(ピクサー テクニカル・ディレクター)●7歳の時に『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977年公開)を見たことをきっかけに映画製作を志し、17歳で渡米。94年にディズニー/ピクサー入社。『トイ・ストーリー』の美術やライティングなどに携わった後、キャラクター・モデリングとリギングを担当。『メリダとおそろしの森』(12年)以降はシミュレーションのテクニカル・ディレクターとして、服や髪などの動きを担当。サンフランシスコ在住。

ピクサー・アニメーション・スタジオは、サンフランシスコから車で20分ほどの町・エメリービルにあります。敷地面積は東京ドーム約2個分。ゲートをくぐると、ピクサー作品でお馴染みのライト「ルクソーJr.」と「ルクソーボール」のオブジェが迎えてくれます。 ©Kaori Suzuki

『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』など数々の人気作を生み出し、世界有数のアニメーション・スタジオとなったディズニー/ピクサー。最新作『トイ・ストーリー4』の日本公開を目前に控え、その勢いはとどまることがありません。ピクサーの歴史は1979年、ルーカス・フィルムのコンピュータ・アニメーション部門として始まりました。当時はまだコンピュータ・グラフィックス(CG)の創生期。部門長のコンピュータ科学者、エドウィン・キャットマルは長編CGアニメの制作を夢見ていましたが、CG技術の開発には莫大な費用と時間がかかり、長らく会社のお荷物状態……。そんな同部門を86年に買収し、キャットマルらと「ピクサー」を立ち上げたのが、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズです。その後、95年に完成させた世界初のフルCG長編アニメ映画が『トイ・ストーリー』でした。以降ピクサーは『バグズ・ライフ』(98年)、『モンスターズ・インク』(01年)、『ファインディング・ニモ』(03年)、『Mr.インクレディブル』(04年)などのCGアニメをヒットさせ、2006年からはディズニー傘下になりました。

ピクサーでは、さまざまな国籍の優秀なスタッフが、フラットなコミュニケーションを行いながら作品をつくり上げていきます。「私が入社した94年は、社員数100人くらい。日本人は私1人でした。いまは全体で1200人以上で、私が働く棟だけで3〜4人の日本人がいます。社員間のコミュニケーションは、最近はSlackを使うことも多いです。たまにプロデューサーから意見が返ってくることもあります」(小西さん)

ピクサーのCGアニメーション作品は、どのようにして生み出されているのでしょうか。まずは監督やストーリー部門のアーティストたちが脚本を練り、絵コンテを描いて、それらをつなぎ合わせたビデオコンテをつくります。これと並行して、アートチームが、キャラクターや彼らが住む世界のスケッチを開始。そのコンセプト・アートに基づき、キャラクターのバーチャル3Dモデルがつくられ、「リギング」と呼ばれる作業で関節や筋肉を、「サーフェス」という作業で髪や服などの表面を形づくります。そうして出来上がったキャラクターを、バーチャル世界に配置して撮影。そこからアニメーターがキャラクターに演技を付け、「シミュレーション」という作業で髪の毛や衣服まで動かしていきます。最後に「ライティング」で明かりを調整し、「レンダリング」という出力作業を経て完成です。

『トイ・ストーリー4』の監督に起用されたジョシュ・クーリー。ピクサーのインターンとしてキャリアをスタートさせ、『カーズ』(06年)、『カールじいさんの空飛ぶ家』(09年)などの絵コンテを担当。15年には『インサイド・ヘッド』の脚本を手がけて評価を得ました。

日本人として初めてディズニー/ピクサーに入社し、『トイ・ストーリー』以降のほぼすべてのピクサーの長編作品に携わってきたのが小西園子さん。入社後、キャラクターの「モデリング」や「リギング」を16年間担当し、現在は「シミュレーション」のテクニカル・ディレクターとして活躍しています。

「『メリダとおそろしの森』(12年)でシミュレーションをやってみないかという話が来た時、『服をやりたいです』と答えました。キャラクターのアクションや感情を、服や髪の毛のリアクションを通して描くことができたら、もっと物語を深めることもできる。今度は、外側からキャラクターをつくる仕事を試してみようと思いました」

以来、生地の伸縮性から洗濯糊の効き方にまでこだわって、服の動きを再現。最新作『トイ・ストーリー4』では、おもちゃたちの服の再現に力を入れたそうです。

「おもちゃサイズのキャラクターは、人間の服とは質感や硬さなどが違います。たとえばギャビー・ギャビー(女の子の人形)の服は、おもちゃの会社に行って、実際にあるサンプルを見せていただいてつくってるんです。ボー・ピープ(女性の羊飼い人形)は、アニメーターがおもちゃらしいカクカクした動きにこだわっていたので、その動きをちゃんと服でも伝えられるように意識しました。シミュレーションの仕事を始めてから常に服の質感が気になるようになって、何でも触るようになりましたね」

小西さんの考える、アニメーションの未来とは?

『トイ・ストーリー4』の一場面。左が主人公のウッディ、右がボー・ピープ。服を着ているすべてのキャラクターに、「テーラリング」と呼ばれるシミュレーションの仕事が生きている。

「よいストーリーがなければ、続編はつくらない」という信念をもち、ほぼすべての続編で前作を超える興行成績を収めてきたディズニー/ピクサー。そのほかにも、成功哲学と言えるものがあるのでしょうか。

「ピクサーには『アートがテクノロジーに挑戦し、テクノロジーがアートをインスパイアする』というモットーがあります。だから私たちテクニカルの人間は、いかに難しい技術でもはじめから『できない』とは絶対に言わないし、妥協はしません。また、2018年までピクサーおよびウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの社長を務めたエドウィン・キャットマルはいつもこう言っていました。『映画はコンピュータがつくるんじゃない。人が映画をつくるんです』と。だからピクサーは人を大切にする。制作にかかる時間や予算、働き方の面でも、私たちは大切にされていると実感しています」

また、社内で飛び交ってきた言葉に「Always Be Curious」があると言います。

「いつも何にでも興味をもって、好奇心をもち続けろ、と。だから私もVRやARなどの会社の機材を使って片っ端から遊んでみたり、3Dプリンターで作品をつくってみたり。去年の夏にはニューヨークのパーソンズ美術大学の服飾の集中講座に行って、パターンメイキングの勉強もさせてもらいました。仕事が終わった後の夜7時や8時から有志で集まって、短編アニメーションをつくったりもしていますね。そうやって携わった作品がオスカー(アカデミー賞)の短編アニメ部門にノミネートされた時はうれしかったです」

ピクサーに入社して25年になる小西さん。「子どもの頃に見た『トイ・ストーリー』を、いま、子どもと一緒に見てます」と言われることも増えたと喜びます。「技術的なことはできて当たり前ですし、できていると胸を張って言えるので、『前の映画よりよかった』とか、作品について率直に言われた方がうれしいですね」

初の長編作品『トイ・ストーリー』から24年。世界有数のアニメーション・スタジオとなったディズニー/ピクサーはいま、どのようなことに力を入れているのでしょうか。また、これから24年後のアニメーションについて思うことは?

「ピクサーの次の作品は、2020年公開の『Onward(オンワード※原題)』です。監督は『モンスターズ・ユニバーシティ』のダン・スキャンロンさん。彼のように、これから才能を発揮していく監督をバックアップする体制をつくること。いま、ピクサーはそこに力を入れて頑張っていこうとしているところです。24年後のアニメーションは、いろいろと変わっているでしょうね。でも、映画を見ることがものすごく楽しい、ワクワクするようなイベントである、ということは変わっていないと思うんですよ。私が7歳の時に『スター・ウォーズ』を観た時と同じく、映画館は、みんなで感動を共有する場所。それは50年先も、100年先も変わらないと思います」

最後にアニメーションの未来について、期待することを聞きました。

「テクノロジーが発達して、アニメーションで自分が伝えたいストーリーを具体化しやすくなってきたと思います。まあ、けして簡単なことではないですけど(笑)。以前と比べると映画がとてもつくりやすくなっているので、みなさんにもつくってもらいたいですし、私も引き続きやりたいです。『みなさん、映画をつくりませんか?』と提案したいですね」


『トイ・ストーリー4』
監督/ジョシュ・クーリー
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
2019年7月12日(金)全国ロードショー
©2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

ピクサーの作品は、想像力と技術の融合から生まれる——。『トイ・ストーリー』に携わり続けた小西園子さんが夢見る、アニメーションの未来とは?

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