これまでにないナチス映画、『ブルーム・オブ・イエスタディ』が伝えてくれる明日へのヒント。

  • 文・細谷美香
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第29回東京国際映画祭 東京グランプリ&WOWOW賞を受賞した作品。©2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH 

12月には『ヒトラーに屈しなかった国王』、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』が公開されるなど、ナチスを扱う作品は日本でも興味を集めるジャンルの一つ。政治の裏側を描くサスペンスから子どもたちが主人公のヒューマン・ドラマまでタッチはさまざまですが、さすがにラブコメディにお目にかかるのは難しいジャンルです。しかしこの『ブルーム・オブ・イエスタディ』は、『4分間のピアニスト』などで知られるドイツ人監督、クリス・クラウスが手がけた、現代を生きる男と女の物語。自身の祖父が虐殺に関わっていたことを知った監督がリサーチを重ね、脚本も執筆して完成させた作品です。

ホロコーストの研究所に勤務するトトは、ナチスの親衛隊の大佐だった祖父を告発する本が評価されたものの、そのせいで家族からは勘当され、妻との関係はほとんど破綻しています。アウシュヴィッツ会議というイベントの準備を進めるなか、感情的になりやすい性格が招いたいざこざによって、担当を外されることに。そんな彼の前に表れたのは、フランスからやって来たインターンの女性、ザジでした。祖母がホロコーストの犠牲者だという彼女とともに会議の準備を進めるなか、立場を超えて惹かれっていくふたり。けれどもやがて浮かび上がってきたのは、ザジが隠していた“事実”でした。

さまざまなトラブルを抱えているトトは精神的に脆いところがあり、対してザジは次に何をしでかすのかわからないハチャメチャな性格。まるで正反対のふたりが距離をつめていく展開は、ロマンチック・コメディのお約束。けれどもトトとザジの間にはナチスの加害者と被害者という深くて長い川が流れているわけですから、あらゆる問題はシンプルではありません。しかもザジは歴史の暗部に触れるようなユーモアを臆さず口にするキャラクターなので、ふたりの会話に吹き出しつつも、本当にここは笑っていいところなのかな? と居心地が悪くなることもありました。そんな笑いも含めて、タブーを恐れないチャレンジングな姿勢が貫かれている作品になっています。

性的に問題を持つトトと、奔放なザジが身体を合わせるシーンにはまるで歴史的な瞬間を目の当たりにするような、奇妙な感動が訪れます。過去に囚われた国と国、人と人とが明日へと一歩を踏み出すために必要なものは何か、“許し”とは何か。過去、現代、未来へと続く人生を祝福するかのような思いがけないエンディングに、監督からのメッセージが込められています。

トトを演じるのは『パーソナル・ショッパー』などに出演しているラース・アイディンガー。©2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH 

ザジ役をダルデンヌ兄弟作品にも出演しているフランス人女優、アデル・エネルが演じています。©2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH 

©2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH 

『ブルーム・オブ・イエスタディ』

原題:DIE BLUMEN VON GESTERN
監督:クリス・クラウス
出演:ラース・アイディンガー、アデル・エネルほか
2016年 ドイツ、オーストリア映画 2時間6分
配給:キノフィルムズ・木下グループ
9月30日よりBunkamura ル・シネマほかにて公開。

http://bloom-of-yesterday.com/