あなたにとっての「よいもの」はなんですか。いいと思う基準はどこにあるのでしょうか。そんな自分のものさしを探るアーティストの個展が東京・銀座で開かれます。
味のあるラインと鮮やかな色彩で、街、モノ、自然を描く板谷龍一郎さん。ベルリンを拠点に、雑誌「MONOCLE」の表紙やトヨタ「レクサス」のアートワークなど、世界中で活躍しています。
「SOMETHING GOOD」(何かよいもの)と名付けられたこの展覧会。描かれるモチーフは、飛行場、エンピツ、朝顔など、外国で暮らす彼の日常風景や身の回りのものたちです。普段の生活で、ふと気になって撮りためた写真の中から選ばれたという風景。気になって手にしたものたち。観光名所でもめずらしくもない、匿名のものたちが、板谷さんのフィルターを通すと、輝くようなみずみずしい生命力をまとった、愛おしいものに変化します。丹念に縁取られ、色彩豊かなそれらの中にある「何かよいもの」とはどのようなものなのでしょう。板谷さんに聞きました。
「タイトルは映画『サウンド・オブ・ミュージック』の一曲から取りました。同じサントラの中でも、有名な『My Favorite Things』ではしっくりこなくて。サムシング・グッドは“好きなもの”ではなくて、たとえば、電車の中で席を譲ったり、重い荷物を持ってあげたり、そういう善いことにつながるイメージなんです。僕の描く空がいつも青いのも、イギリスに住んでいた時、晴れているのがよいことの象徴だったから。そういう何かよいものが絵にあるといいなと思いながら描いています」
なんとなくよいと思って選んだ写真やモノは、まだ曖昧で漠然としていて、Facebookの「いいね」やインスタグラムにアップされる写真と同じような感覚なのでしょう。その気分をすくい取って絵に変換するうちに、板谷さんの考える“よいもの”が塗り込められていく。電車の中で席を譲ったり、重い荷物を持ったりといった、親切や礼儀正しさ。天の恵みのような青空。そうした気持ちのよさも「よいもの」に含まれるのでしょう。
ていねいに、雑な気持ちにならないように絵を描くという板谷さん。環境を整え、気持ちを整える。よいものが生まれるといいなという気持ちを丹念に込める。そんな風に生まれた40点の作品が並びます。(佐藤千紗)
Ryu Itadani「SOMETHING GOOD」
開催期間:6月25日(土)~7月10日(日)
開催場所:ポーラ ミュージアム アネックス
東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
営業時間:11時~20時(入場は19時30分まで)
www.po-holdings.co.jp/m-annex/exhibition/index.html