世界的に音楽のパッケージ商品が売れないなか、ライブビジネスは右肩上がりと聞きます。その市場を牽引するのが世界最大のイベントプロモート会社「ライブ・ネイション」。昨月発表された2015年の年間売り上げは、コンサート部門に限っても49億6500万ドルという巨額さです。本作がスポットライトを当てるのは、ライブ・ネイションのコンサート部門を取り仕切るアーサー・フォーゲルという人物。U2やマドンナといったスーパースターも絶大な信頼を寄せるプロモーターです。
フォーゲル本人がインタビューに答えるほか、彼と仕事をする大物ミュージシャン、そしてレコード会社やマネージメント会社の幹部が登場し、フォーゲルとは何者かを探っていくつくりです。ただ、前半はイマイチ入り込めません。ふだんは見ることのできないバックステージの映像や写真は楽しいですし、なかなか表には出てこない業界人の話もそれなりに面白いのですが、みんな口を揃えて「アーサーはすごい」というわりに、彼のすごさが見えてこないのです。ほかに見どころというと、レディー・ガガのプリケツくらいでしょうか。
ところが後半。再結成したポリス、レディー・ガガ、U2という3組のツアーの裏側を見せつつフォーゲルの仕事を追うようになると、目が離せなくなります。世界を回るメガツアーを手がけられるのはノウハウを知るほんのわずかなプロモーターだけで、そのうちのひとりであるこのカナダ人がいかにミュージシャンに頼られているかがわかってくるのです。育成部門を保持できなくなったレコード会社、オーディション番組の隆盛、SNSと音楽の関係といった音楽業界の現状をうかがい知れる話も飛び出し、ふむふむとなります。そしてなにより、時々挟み込まれる古今のライブ映像。ライブならではの高揚感に、鳥肌が立つ場面もありました。映画を観終わったらきっと、ライブというコピーもダウンロードもできない唯一無二の体験をしたくなるはずです。(Pen編集部)
© Chapman Productions 2013
『アーサー・フォーゲル ~ショービズ界の帝王~』
原題/Who the F**k is Arthur Fogel?
監督/ロン・チャプマン
出演/アーサー・フォーゲル、レディー・ガガ、ボノ(U2)ほか
2013年 アメリカ映画 1時間44分
配給/ジェットリンク、エレファントハウス、カルチャヴィル
3月5日~3月18日新宿シネマカリテほかにて、2週間限定モーニング&レイトショー
http://arthurfogeljapan.com