週末シネマ案内:呪われた館から衣装まで、ギレルモ・デル・トロの美的こだわりが詰まった『クリムゾン・ピーク』

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    イーディスを演じるミア・ワシコウスカ。ギレルモ・デル・トロ監督は、彼女の透明感のある美しさを余すことなく映し出しています。

    『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』で知られるギレルモ・デル・トロ監督の作品はいつも、思わず映像を止めて隅々まで観たくなるような濃密な絵作りがなされています。美しいもの、おぞましいもの、幻想的なもの、未来的なもの……。幅の広さもさることながら、独特の美的感覚を駆使して観たこともない映像をつくり出すのです。ジャンルでいうとゴシック・ホラー、ゴシック・ロマンスというんでしょうか、彼の新作『クリムゾン・ピーク』は、ますますパワーアップしたこだわりに満ちています。


    舞台は20世紀初頭のニューヨーク州。若き作家イーディス(ミア・ワシコウスカ)に夢中なふたりの男がいます。ひとりはイーディスの幼馴染で医師のアラン(チャーリー・ハナム)。もうひとりはイギリス出身の准男爵、トーマス(トム・ヒドルストン)。イーディスは父を失った後、誠実なアランではなくミステリアスなトーマスを選び渡英します。向かった先は、トーマスとその美しき姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)がもつ巨大な屋敷「アラデール・ホール」。見渡す限りなにもない丘の頂に立ち、栄華を偲ばせるつくりながら、朽ちかけつつある不気味な館でした。冬になると、血のような色の粘土が雪からにじみ出て辺りを真っ赤に染めることから「深紅の頂(クリムゾン・ピーク)」と呼ばれる場所で、3人は暮らし始めるのですが……。


    なにか秘密を抱えているようなルシールとトーマスの姉弟の妖しさが、物語をスリリングに転がします。ルシールを演じるジェシカ・チャステインがはまり役です。彼女は日本でいう平安顔とでもいうんでしょうか。これまで、その人気ぶりがピンとこなかったのですが(演技は素晴らしいのですけれど)、クラシックな髪型や仕草、ドレスがとても似合っています。そしてもうひとりの主役とも言えるのがゴシック様式の館。6ヵ月かけてつくったという巨大なセットは、気品あるゴシック調ながら、なにかが確実におかしいフォルムをしています。そして、家具からカトラリーに至る小道具が不気味さを醸し出し、衣装のフォルムや色や素材が登場人物たちの心情を代弁していくのです。幽霊が見えるというイーディスがそこで目にするものとはなんでしょうか? ラストへと向かう疾走感は、背筋が凍るほどでした。暖冬を一瞬忘れさせてくれる2時間のひんやり体験、おすすめです。そして、ギレルモの映像を止めて隅々まで観たくなる方は、アートブック『クリムゾン・ピーク アート・オブ・ダークネス』をチェックしてみてください。(Pen編集部)

    妖艶な男トーマスを演じたトム・ヒドルストン(左)。瞬き少なめで、吸い込まれそうになります。

    人里離れた場所にポツンと立つトーマスとルシールの屋敷「アラデール・ホール」は物語のもうひとつの主人公。

    ゴシック調の意匠が施された内外観は、目を凝らしてゆっくり観たくなるほどつくり込まれています。

    ©Universal Pictures.

    『クリムゾン・ピーク』


    原題/Crimson Peak

    監督/ギレルモ・デル・トロ

    出演/ミア・ワシコウスカ、トム・ヒドルストン、ジェシカ・チャステイン、チャーリー・ハナム

    2015年 アメリカ・カナダ合作映画 1時間59分 レイティングR15+

    配給/東宝東和

    1月8日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。

    http://crimsonpeak.jp