映画『スター・ウォーズ フォースの覚醒』公開で、再びハリウッド神話が世界を席巻しようとしている中、一冊の本が新訳され、映画ファンの間で話題になっています。この『千の顔をもつ英雄』は、古代メソポタミアの『ギルガメシュ叙事詩』から、ブッダの説話まで、古今東西の神話や民話に登場する「英雄」たちの共通パターンを比較し、神話の基本構造を論じた古典的研究書です。
これがなぜ映画と結びつくかと言えば、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが1949年に著した本書は、ハリウッドで多くのクリエイターたちに読まれ、深い影響を与えているからなのです。大学でキャンベルの授業を受けたジョージ・ルーカスが、英雄伝説の基本構造を『スター・ウォーズ』3部作のインスピレーションの源にしたのは有名ですが、他にも『マトリックス』『ロード・オブ・ザ・リング』などの映画シリーズ、『ライオンキング』といったディズニーアニメも、本書の影響下に生まれました。キャンベルの研究を基に神話を再解釈したのが、多くの大ヒット映画だという意味で、『千の顔をもつ英雄』は、まさにハリウッド・エンタテインメントの原点というわけです。
ハリウッド、そしてアメリカは、映画で何を語ろうとしているのか。神話学ファンだけでなく、大人の映画ファンにとっても、ちょっと深い映画の見方を授けてくれる名著の、待望の「帰還」といえるでしょう。(幕田けいた)
『千の顔をもつ英雄』 上・下巻
ジョーゼフ・キャンベル 著 / 倉田真木 斎藤静代 関根光宏 訳
判型: 文庫
価格:各¥799
早川書房
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