パトリス・ルコント最新作「暮れ逢い」をクリシェというならば、本当の官能を知らない証拠。

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    恋に堕ちたのは、人妻でした。自分を目にかけてくれる実業家の奥様で、年老いた社長とは歳の離れた若くて美しい女でした。

    美しいドレスに身を包み、良き母、良き妻として振る舞う彼女。はじめは憧れの気持ち、ただそれだけでした。そんな彼女の住まう家に、住み込みで働くようになり、そのうなじが、その後れ毛が、手を伸ばせば届く距離になり、彼女のほのかな匂いが全身を震えさせるほどに薫ると、憧れという気持ちは、欲しい、占領したいという気持ちに変わっていきました……。

    時代は第1次世界大戦前のドイツ。フランスの名作家シュテファン・ツヴァイクの原作『Journey into the Past』を映画化した本作は、ふたりの許されざる恋心をていねいに紡ぎ、戦火とともに炎のように盛り上がってゆくさまを追っていきます。欲望のままに夜をともにするというありがちなシーンは本作にはなく、それを求める人には物足りないかもしれませんが、パトリス・ルコント監督曰く「そこにいくまでの、焼けるような胸の痛み、ざわめき、それらが恋の本当の醍醐味であり、それが愛になったとき、高貴で深いものに変わるのです」。そう、この映画をクリシェというならば、それは本当の官能的な恋愛を知らない証拠なのであります。愛しい人と是非。(Pen編集部)

    『暮れ逢い』

    監督:パトリス・ルコント
    出演:レベッカ・ホール、アラン・リックマン
    2013年 フランス・ベルギー映画 1時間38分 配給:コムストック・グループ
    12月20日(土)~シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー