超絶ダメ男を仲野太賀が好演! “なまはげ”をきっかけに大人になる難しさを描く『泣く子はいねぇが』。
いわゆるダメ男が主人公の映画は数多ありますが、『泣く子はいねぇが』の主人公、たすくはなかなかレベルの高い(?)ダメ男。映画のなかのダメ男について書くとき、「愛すべきダメ男」とか「憎みきれないろくでなし」などと表現してしまうことが少なくないのですが、『泣く子はいねぇが』のたすくは、フォローするのが結構難しい。なぜなら彼が常に現実に背を向けて、“逃げ”の体勢をとり続ける男だからです。
秋田県、男鹿。たすくとことねの間には、娘が誕生したばかり。映画が始まってすぐ、赤ちゃんに全神経を注いでいることねが、シャキっとしていない夫のたすくにイライラしていることが伝わってきます。大晦日の夜、地元の伝統行事「なまはげ」に参加したたすくは、ことねからお酒を飲まないようにと強く言われたのに、あっさり飲んでしまい泥酔。なまはげのお面を付けたまま全裸で走っている姿が、テレビで放送されてしまいます。
それから2年後、逃げるように向かった東京で暮らすたすくは、妻と娘への思いを胸に再び秋田へと戻りますが……。
いまさら帰って来られてもことねにとっては身勝手な行動にしか思えないだろうし、たすくの兄は冷たい視線を向けるけれど、秋田名物のアイス、ババヘラを売るたくましき母は責めることなく当たり前のように次男を迎え入れ、頼り甲斐のある朗らかな親友もいる。所在ないような顔なんてせず、働くなりなんなりして生活というものと向き合いなさいよ……、と感じたわけですが、ジタバタと情けない様子の彼を見ているうちに、次第に「あれ? 父になるって怖いことだったんだろうな」「男らしさなんて押し付けられても困るよね……」と納得しそうになる瞬間が。
この説得力は、寒風吹きすさぶ景色のなかで男の弱さを徹底的に描き出した監督の粘り勝ち。そして大人になりきれないたすくを、常に目が泳ぐ絶妙な情けなさで表現した仲野太賀の名演あればこそでしょう。
是枝裕和率いる映画集団「分福」のバックアップを受け、自身の出身地を舞台にしたオリジナル映画を完成させたのは、30代の新鋭、佐藤快麿監督。ラストを見届けた後には妙に清々しい気持ちになり、早くも次回作を観たくなりました。
『泣く子はいねぇが』
監督/佐藤快磨
出演/仲野太賀、吉岡里帆
2020年 日本映画 1時間48分
11月20日(金)より、新宿ピカデリーほかにて公開。
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