異なる業種で働く77人が、緊急事態宣言下で考えたこと。

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    仕事本 わたしたちの緊急事態日記

    尾崎世界観/町田 康/川本三郎ほか

    異なる業種で働く77人が、緊急事態宣言下で考えたこと。

    今泉愛子ライター

    新型コロナウイルスの感染拡大に伴って政府が特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令したのは4月7日のことだった。対象は東京都、大阪府、福岡県など7都府県で、期間は5月6日まで。その後4月16日には対象を全国に拡大した。
    本書は、旅行会社社員や内科医、美術館館長、ミュージシャン、小説家など60種類の仕事に就く77人の緊急事態宣言後3週間の日記を掲載。それぞれがどう過ごしたかを収めている。
    スーパーのパン売り場スタッフは急に忙しくなったと書き、タクシー運転手は、3月から下降していた売り上げがさらに下降したと書いた。経済的な影響や今後の見通しは、業種と仕事のやり方によって大きく異なる。
    水族館職員はイルカショーの中断でイルカの運動不足を心配し、占星術家は、外出や人との接触を安易に勧めることができず、どんな占いを書けばいいのかと頭を悩ませている。
    葬儀社スタッフは、顧客から「新型コロナウイルスで亡くなったかもしれない」と聞き、いままでになく声が上ずったと書き、かつて無力感を歌詞にしたミュージシャンは、今回初めて本物の切実な無力感を体験していると打ち明けた。
    立場の違う人たちが、異なる悩みを抱え、ときに些細なことに苛立ったり、不安に陥ったりしながら模索している。誰もがこれまでにない経験をしているのだ。
    だが本書を読んでいると、不思議と暗い気持ちにはならない。不安になったのは自分だけではないと知ることで、社会の状況を受け入れる余裕が芽生えるからだ。同時に、世の中には多くの仕事があり、それぞれが支え合っていることにも気付く。落ち着かない状況は続くが、目の前のことと誠実に向き合いながら、淡々と日々を過ごすことの大切さを実感した。

    『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』尾崎世界観/町田康/川本三郎ほか著 左右社 ¥2,200(税込)