南米生まれのミッドセンチュリーチェア

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨
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Vol.47
南米生まれのミッドセンチュリーチェア
BKFチェア

アントニオ・ボネット、フアン・クルチャン、ホルヘ・フェラーリ=ハードイ

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

アントニオ・ボネット、フアン・クルチャン、ホルヘ・フェラーリ=ハードイ。ル・コルビュジエのオフィスで出会った3人の建築家がデザインした椅子の名は、それぞれの頭文字をとって「BKFチェア」と名づけられました。バタフライチェア、ハードイチェアなどの愛称でも知られる椅子は、手頃な価格もあってミッドセンチュリー期のアメリカの若者に愛された椅子です。

「BKFチェア」がデザインされたのは1938年。こちらはスウェーデンのクエネロが復刻したレザー製。アメリカのノル社では1947〜51年に販売されましたが、同社創業80周年を記念して2018年にフェルトシート製でも復刻されました。サイズはW850×D900×H900mm。

ル・コルビュジエのアトリエでアルゼンチン・ブエノスアイレスの都市計画にかかわった、スペイン・バルセロナ生まれのアントニオ・ボネット、アルゼンチン出身のフアン・クルチャンとホルヘ・フェラーリ=ハードイ。意気投合した彼ら3人はブエノスアイレスに拠点を移し、1938年に同地で手がけた集合住宅のために「BKFチェア」をデザインしたといわれています。彼らがインスピレーションを得たのはイギリスのエンジニア、ヨゼフ・フェンビィが1855年にデザインしたアウトドア用の折りたたみ椅子でした。

やがてミッドセンチュリー期に入ると、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のインダストリアルデザインキュレーターであるエドガー・カウフマン Jr.が「BKFチェア」を評価したことで人気が高まります。MoMAへの収蔵とともに、ペンシルベニアにあるカウフマン Jr.の両親の週末住宅「落水荘」に納品され、アメリカへ紹介されることとなりました。そう、「落水荘」は言わずと知れたフランク・ロイド・ライト設計の名作住宅です。この椅子は、初期はアルヴァ&アイノ・アアルトのアルテック=パスコ社、その後はノル社で製造され、1950年代には人気の高さから大量のコピー商品も出回りました。現在はスウェーデンのクエロ社からレザー製のチェアが、2018年以降はノル社からフェルト製のチェアが復刻されています。

ゆったりと身体を包み込むシートの座り心地は、まるでハンモックのよう。スチールロッドの構造にシートの四隅を引っかけただけという、シンプルさの極みです。