常識を覆す音や演出。 CMで流行をつくりたい。

  • 文:泊 貴洋
Share:

常識を覆す音や演出。 CMで流行をつくりたい。

文:泊 貴洋
27

佐藤 渉

CMディレクター

●1980年、宮城県生まれ。2006年にモンスターフィルムス(現:ティー・ワイ・オー MONSTER)入社。ティー・ワイ・オー SPARK所属。近作CMはイノフィス『マッスルスーツ Every』、木村拓哉出演のマクドナルド。18年UHA味覚糖『さけるグミ』、19年ブックオフのCMでACCグランプリ受賞。

シュールでカオスな日清食品『カレーメシ』、カンヌライオンズでシルバーライオンを受賞したUHA味覚糖『さけるグミ』、天才子役・寺田心の怪演がバズったブックオフ。コンプライアンスの問題で面白い作品が生まれにくいCM業界で、ひとり気を吐くのがCMディレクターの佐藤渉だ。

「ブックオフは、店員役の寺田さんが『ブックオフなのに本ねぇじゃーん』と客に言われて涙ぐむ企画でした。でも、それだと普通。見たことのない寺田さんを見せられたら話題になると思い、本人が『本ねぇじゃーん』と言うタイプもつくったら、ネットで拡散してパロディもあふれた。嬉しいですね」

プランナーが考えた「企画コンテ」を映像化するのがディレクター。だが佐藤は、企画を見直すことから始める。

「自分ではディレクターというより『 CM作家』みたいな。俯瞰で企画を見て、違うと思えば変える。責任をもって形にする役割だと思ってます」

手にしていた自作のコンテは、漫画家が描いたようなクオリティだった。

 「子どもの頃は漫画家になるのが夢でした。性格は暗くて、休み時間もずっとひとりで座っているタイプ。でも人を観察するのが好きで、『あいつらは友達で、あいつは仲間外れ』とか想像してました。あと、誰かが先生に怒られたりすると、後ろのほうでこっそり笑っていたり。性格悪いですよね(笑)」

テレビっ子で、「将来はテレビの仕事をしたい」とも思っていたという。

「お笑いとPVが好きでした。お笑いはドリフターズからひょうきん族、とんねるず、吉本の若手まで全部見ていたけど、いちばんハマったのはダウンタウン。シュールでブラックな、ちょっと暴力的な笑いに惹かれました」

そして大学時代、イベントで世界のCMを見て開眼。現在の仕事を選んだ。

「CMをつくる時に大事にしているのは、新しい表現であるかを自問すること。見たことのある映像、聞いたことのある音に人は反応しない。まずは視聴者を振り向かせなきゃいけない」

出世作の『カレーメシ』では、音声で商品説明を行い、映像はコントやアニメをごちゃ混ぜに。そのズレで新感覚のCMを生んだ。お疲れのママに子どもたちが豆乳担々麵などを薦める日清ご褒美ラ王『天使の兄妹』篇で狙ったのは、「聞いたことのない音」だ。

「目的は主婦をキュンキュンさせること。だから『面白くしなくていい』と言われたけど、なにか抵抗したい(笑)。そこで、子どもたちが商品名を間違って言う演出をしました。最初は『豆乳担々』と繰り返してもらい、途中でこっちが『豆乳タンタカタン』とか言うと、こんがらがって全然違うことを言う。子どものかわいらしさという要素は守りつつ、エッジを効かせたくて」

字幕で補っているが、商品名を言えていない掟破りの広告だ。常に、常識やルールを崩したいという思いがある。

「昔のカップヌードル『hungry?』やせがた三四郎、ヤキソバンのように、CMで流行をつくりたいんです。日本は高齢化が進んで、高齢者がターゲットの商品も増えていく。高齢者に刺さるCMがつくれたらいいなとも思っています。すごくゆっくりしたナレーションを入れるとか、商品にめちゃくちゃ寄っていって見やすくするとか(笑)」

「演出に悪意があるよね、とよく言われる」と笑う佐藤。そのシニカルな遊び心が、面白くて痛快な、目立つCMを生み出している。


Pen 2020年3月1日号 No.490(2月15日発売)より転載

日清食品ホールディングス 日清ご褒美ラ王『天使の兄妹』篇

子どもたちが商品名を言えない面白さとかわいらしさで視聴者から共感を得た。

ブックオフ『心を読める心くん』篇

撮影前に「見たことのない心くんを見たい」と話して寺田心の怪演を引き出し、ほぼ一発OKで撮り終えた。