重々しさと逆のアプローチで、心を揺さぶる戦争映画『ジョジョ・ラビット』。

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    『ジョジョ・ラビット』

    タイカ・ワイティティ

    重々しさと逆のアプローチで、心を揺さぶる戦争映画『ジョジョ・ラビット』。

    高橋健太郎音楽評論家

    監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』で注目を集めたタイカ・ワイティティ監督。ジョジョの空想の友達であるアドルフ・ヒトラーを監督自身が演じている。ジョジョ役はオーディションで選ばれたローマン・グリフィン・デイビス。 ©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

    ビートルズの『抱きしめたい』のドイツ語バージョンが鳴り響く冒頭から、すっと吸い込まれてしまう。舞台は第2次世界大戦末期のドイツの小都市。ナチの青少年部隊に参加する少年と彼の家の屋根裏に隠れ住んでいた少女の物語だ。ファシズムと戦争を背景にするが、映画はユーモラスかつ詩的な美しさも湛えて、軽快に進んでいく。すべてのシーンにタイカ・ワイティティ監督の美意識が張り巡らされていて、一瞬たりとも目が離せない。
    ナチに憧れる少年は母親が密かにかくまっていたユダヤ少女を発見する。通報すれば、母親と少年も処刑されるというジレンマの中で、ふたりは契約関係を結ぶ。彼女を通してユダヤ人研究を始めた彼がつくる、奇怪なイラストで一杯のユダヤ研究本が面白い。
    少年の脳内妄想に現れるアドルフ・ヒトラーも滑稽だし、ナチの訓練劇も馬鹿馬鹿しく描かれるが、だが、それが殺戮へとつながっていく。スカーレット・ヨハンソン演ずる母親は、反ナチの抵抗運動に参加していたことが発覚する。少年と少女も、ゲシュタポに追いつめられるが、青少年部隊の指導官がなぜか彼らを救う。演ずるサム・ロックウェルがナチズムの中に生きる人間のアンビバレンスをにじませ、強烈な印象を残す。
    ラストで小さな恋の物語を祝福するのはデヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』のドイツ語バージョン。音楽の使い方も考え抜かれている。映画だからできるマジックを駆使して、重々しさとはまったく逆のアプローチで心を揺さぶるという点では『ライフ・イズ・ビューティフル』以来の戦争映画だと思う。それだけに、少し経ってから怖さが染みる。ファシズムは、戦争は、こんな滑稽な顔をして、ごっこ遊びのように進んでいく。そして、引き返せなくなるということを本作は教えているのだから。

    『ジョジョ・ラビット』
    監督/タイカ・ワイティティ
    出演/ローマン・グリフィン・デイビス、トーマシン・マッケンジー、サム・ロックウェルほか
    2019年 アメリカ映画 1時間49分 全国の映画館にて公開中。
    http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/