飢饉に苦しむマラウイで、風力発電機をつくった少年の実話。

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    『風をつかまえた少年』

    キウェテル・イジョフォー

    飢饉に苦しむマラウイで、風力発電機をつくった少年の実話。

    村山 章映画ライター

    実写版『ライオン・キング』で声優を務めるなど、活躍が続くキウェテル・イジョフォーの長編監督デビュー作。小説『風をつかまえた少年』の映画化で、演技未経験の少年を主人公に抜擢し、実話の舞台であるマラウイで撮影を敢行した。 © 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

    アカデミー賞作品賞に輝いた『それでも夜は明ける』の主演俳優として知られる名優キウェテル・イジョフォー(実際の発音はチュウィテル・エジオフォー)は、10年前に映画監督としてデビューすることを決意した。そのきっかけになったのはアフリカ南部の国マラウイで起きたある実話だった。

    マラウイ共和国は最貧国のひとつであるだけでなく、干ばつが引き起こす深刻な飢饉に苦しんでいた。そんな中、授業料が払えず学校を追い出された14歳の少年が、家族と村を救うために独学で風力発電機を自作したというのだ。

    イジョフォーの両親はナイジェリア出身で、彼自身はイギリス生まれのイギリス育ち。決してマラウイと縁があったわけではない。しかしウィリアム・カムクワンバというこの少年の存在に大きな希望を感じたイジョフォーは「映画にしたい」と強く願うようになり、10年がかりでようやく完成にこぎ着けた。その成果が本作『風をつかまえた少年』である。

    多くの日本人にとってもマラウイは縁遠い未知の国だろう。しかしこの映画は我々観客を大地に根ざしたマラウイの庶民の暮らしに誘ってくれる。電気は通らず、人々は電池駆動のラジカセに耳を傾ける。村の総意は長老に決められ、冠婚葬祭では古くから伝わる着ぐるみを着た集団が舞い踊る。

    しかし一見エキゾティックな異国でも、お互いを思いやる家族の姿や想いの深さは変わらない。ウィリアム少年のひたむきさは、1万2千㎞ある日本とマラウイの距離も埋めてくれるのだ。

    映画には立派なメッセージが必須とは限らない。しかし本作においては、イジョフォーが最初に感じた感動と希望がまっすぐなドラマに昇華されていることに大きな魅力がある。余計な手練手管はいらない。真摯な信念と土と風と人があれば、誰かの心を動かすことができるのである。

    『風をつかまえた少年』
    監督/キウェテル・イジョフォー
    出演/キウェテル・イジョフォー、マックスウェル・シンバほか
    2018年 イギリス・マラウイ合作映画 1時間53分 8月2日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
    https://longride.jp/kaze