Vol.44 時を経ても色褪せない、アヌ・トゥオミネンの奇をてらわない作品集。

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    写真・文:中島佑介(POST)

    Vol.44 時を経ても色褪せない、アヌ・トゥオミネンの奇をてらわない作品集。

    “Anu Tuominen” /Anu Tuominen / Ars Fennica
    『アヌ・トゥオミネン』/ アヌ・トゥオミネン著 / アルス・フェニカ刊

    フィンランドのアーティスト、アヌ・トゥオミネンを友人が教えてくれたのは2006年頃、書店を始めて間もない頃でした。陶器や調理器具、ポストカードといった蚤の市で見つけた品々にウィットに富んだ一手間を加え、かわいらしくユーモアにあふれるオブジェを制作する作家です。当時、その友人に見せてもらった作品集にひと目で惹かれ、作家にすぐ連絡をして取り扱いを開始しました。店頭でも好評で、作家の手元にある作品集を可能な限り送ってもらい販売しましたが、約1年のうちに在庫は完売。それから10年以上の年月が過ぎていました。

    最近、あるきっかけで「アヌ・トゥオミネン」の名前を検索していると、作家のウェブサイトにたどり着きました。近年はどんなことをしているのだろうと見てみると、絶版になったはずのあの作品集が販売されています。さっそくコンタクトを取ってみると、2008年に再版した在庫が手元にあることを教えてくれました。

    改めて入手したこの本を見返してみると、新たにアートブックとしての魅力に気が付きました。最近のアートブックはデザインが多彩になり、作品のコンセプトを雄弁に物語るものも多くなりました。作家の表現の手段として本が活かされている現状は好ましい一方で、デザインがあまりにも饒舌になっている事例も増えているように感じていました。対してこの本は、並製本という当時の限られた選択肢の中から選ばれたごく一般的な造本ですが、紙の質感や本のサイズ、図版やレイアウト、テキストの入れ方といったディテールをていねいに仕上げています。奇をてらわない些細な選択の蓄積がアートブックとしての魅力を築き、結果として時が経過しても色褪せない魅力が備わっていたのです。今日のブックデザインの傾向とは対極にある本書は、アートブックのデザインについて、原点に立ち戻って考える機会を与えてくれます。

    作品群の色を統一したページ。個々の作品よりも、1枚の写真としての表現が考慮されていることがうかがえます。

    見開きでの見え方が強く意識されているページ。テキストの配置も絶妙です。

    上のような余白のある端正なページとは対照的な、見開きいっぱいに裁ち落としで写真を掲載したページ。抑揚が効いています。

    “Anu Tuominen” /Anu Tuominen / Ars Fennica
    『アヌ・トゥオミネン』/ アヌ・トゥオミネン著 / アルス・フェニカ刊
    タイトル:『アヌ・トゥオミネン』
    著:アヌ・トゥオミネン
    出版社:アルス・フェニカ
    ページ数:120ページ
    サイズ:26.1×21 cm
    ISBN-13:952-471-227-x
    出版年:2003年
    価格:¥6,480(税込)